めまい

B00006880q01北北西に進路を取れ」に書いたように、私のコンプレックスはヒッチコック作品をほとんど見ていないことです。その後もなかなか…。しかし今回シャケさん宅の記事「バーナード・ハーマンの音楽」で「めまい」の音楽の素晴らしさを知り、絶対にこれだけは見なくては! となりました。AFI選定“映画音楽トップ25”に選ばれたのも納得です。とにかく聞いてください、見てください。レストランでのシーンの映像、赤い壁とキム・ノヴァクの緑のストールの対比が鮮烈。ノヴァクの美しさにも圧倒されました。

 製作は57年、ちょうど半世紀前ですが、いやー、名作は色あせませんね。ゆったりしたテンポ、たゆたうような旋律に身をゆだねて極上の恋愛ミステリーに酔いました。舞台はサンフランシスコ、スペイン系の女性の存在が大きいのですが、街自体がスペインの宣教師が開いたものなんですね。エキゾチックなホテルや修道院などが出てきてヨーロッパ映画のようです。

 何から語ったらいいのか、ヒッチコック最高傑作とも言われるだけあって、なにもかも素晴らしいです。見て損はない作品とだけ言っておきましょう。特典映像にはスコセッシ監督も出演。公開時に「めまい」を見たときの衝撃を語っています。美しい夢が悪夢に、ですか、いっそ「美しい悪夢」と私は呼びたいです。

 衣裳も特筆もの、白いコートのマデリン(キム・ノヴァク)は黒のシフォンのロングスカーフ、黒いドレス、手袋、バッグ。完璧なモノトーン、とため息がでました。ヒッチコックは色にもこだわる監督だったそうですね。金髪にグレイのスーツ、ノヴァクは嫌がったそうですが、この「不安定な取り合わせ」が効果を上げている?

 オリジナルフィルムは傷みが酷かった由、修復のドキュメント映像も見ごたえがありました、2年の歳月と100万ドル以上を費やして完成、今後200年はOKだそうです。これから生まれてくる映画ファンも「めまい」にそれこそめまいを覚えるのでは。私、vertigo(めまい)とacrophobia(高所恐怖症)という単語が脳裏に刻み込まれてしまいました。

 マデリンが何度も訪れたレジョンドヌール美術館(Palace Of Legion Of Honor)に行ってみたくなりました。このサイトの右上のゲート(天使のレリーフがナイス)は映画にも出てきます。公式サイトはこちら。サンフランシスコを訪ねる機会があれば、ぜひ行ってみたいですね。

 なかなか旅行もできないのですが、下記の「世界美術館の旅」を眺めながら旅した気分に浸っています。レジョンドヌールも載ってますが、隣のページにはパサデナ(LAの隣の市)にあるノートン・サイモン美術館が! ここは訪問したことがあります、いい美術館でした。こちらも映画と関わりがあります、「慕情」のジェニファー・ジョーンズが、この美術館を支えた大富豪ノートン・サイモンと結婚したのだそうです。

地球紀行 世界美術館の旅 Book 地球紀行 世界美術館の旅

販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (2)

メーキング・ラブ(2)

10m_1  最近、BBMとの関連でこの映画のことを思い出し、前回の感想など読み返したのですが。ビデオが手に入りましたので改めて感想を。

 25年ぶり(?)に再見して感心しました、やはり当時のアメリカ映画としては画期的だと思います。あるレビューで、「自分は当時20歳のクローゼット・ゲイだった。真剣に自殺を考えていたが、この映画に救われた」とありましたが、それだけの力を持った作品かもしれません。きちんとゲイと向き合っていると感じました。時代はイニスとジャックの最後の逢瀬の頃。同じアメリカでも大都会とワイオミングではえらい差だな、と考えさせられました。

 結婚8年のザック、クレア夫妻(30歳くらいなので結婚は早い)は仕事も順調、豪華な新居も手に入れて順風満帆。しかしザックは自分が男性に惹かれることに気づき、その気持ちを抑えることができなくなって…。

 4半世紀前とはいえ、舞台は大都市LA。ゲイの集う店は盛況です。ザックはカウンターで酒を飲みながら店内のカップルを複雑な目で追いますが、いざ誘いがくると逃げてしまいます。結局、患者として出会った作家のバートと食事などするうちに親密になり、ついにある夜、バートは告白します。「俺はゲイだ。」

*以下ネタばれとなります。

 それまでザックは好奇心で君と会っている、みたいなことを言ってましたが、バートへの思いは止められず、ベッドイン。バートは自分の妻との間を行ったりきたりするザックを責めます。そのくせ、ザックから愛しているといわれるとたじろぎ、逃げの姿勢。ザックはクレアにきちんと告白し、バートとの暮らしを望みますが、バートは1人がいい、特定の相手と関わるのは御免だ、と。(このあたり前回の感想は記憶違いをしていました、訂正します。)

 ザックから「話がある」と切り出されたクレア。夫の様子がおかしいのに気づいていました。心の準備はできていたはずなのに「男を求めている」というザックの言葉に錯乱します。やはり相当の抵抗があったのでしょうねー、相手が男と知って。

 クレアはザックのポケットから出てきたマッチのメモ(男だけが行く店?)を頼りに訪ねていき、ザックが偽名でそこに来ていたことを知ります。「どんな話をするの?」「話をするんじゃないんだ。男と女がするのと同じこと。」そして店主(?)は、「隠そうとするなんてムダなのに」。クレアは打ちのめされて帰宅します。

 それでもクレアはザックとやり直したいと迫りますが、偽りの夫婦生活を続けるわけにはいかないと突っぱねられ、結局は離婚です。数年後、再会したザックとクレア。互いに新しいパートナーがいてうまくいっているようです。でもクレアはまだザックに未練があるのでは、と思われ、でも最後には吹っ切れたのかな、と思わせる部分もあり。複雑です。

 ザックもバートもクレアも、それぞれ父親とのエピソードが印象的でした。ザックの父はワンマンで厳格。バートの父はバートが少年時代、野球でミスったら「恥ずかしくて会社に行けない」と。「親父が死んだ日、はじめてゲイバーに行った。本当は俺はゲイだと言って親父の反応を見たかった」のです。クレアは父とは電話で話すのみ。8歳のとき、クレアの父は突然、家から消えた…。

 BBMと違い、ザックもバートも子供はいません。クレアは子供を欲しがっていましたが。BBMの濃密さとは比較になりませんが、ゲイ・クラシックと呼んでいい作品かと思います。前回の感想にはDVD化されてないようなことを書きましたが、それは日本での話でした、失礼しました。アメリカでは今もDVDが入手でき、BBMとの比較レビュー(?)も出ているようです。

| | コメント (1)

めぐりあう時間たち(2)

Cimg0015  shitoさんの「傍流点景」の「めぐりあう時間たちへの耽溺」は衝撃だった。自分も3回見て、かなり濃い感想を書いたつもりだったが、shitoさんの足元にも及ばない。あのときの言い知れぬ感情がよみがえり、どうしても再見したくなった。

 BBMとも通じるものがある同作品。前回の感想は下記から。

★下記の感想、この記事及びコメントも含め、基本的にネタばれです。BBMのラストにも触れてますのでご了承ください。

http://emmanueltb.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_b9c9.html#comments

 再見したのは1ヶ月も前だけど、なかなか感想を書けず。BBMのことやshitoさんの視点も新たに加わり、見ていて涙が止まらない。見終わってからも泣いてばかりで目が痛かった。監督(「リトル・ダンサー」のS.ダルトリー)と原作者のマイケル・カニンガム(ゲイだそう)のコメンタリ付きでさらにもう1度見た。

 やはりローラ(ジュリアン・ムーア)の存在が胸を締め付ける。カニンガムは、彼女はレズビアンではないと。では友人キティへの思いは? イニスにとってのジャックのようにソウル・メイトだったのだろうか。しかしローラの片思いなのだ。
 子宮の手術を受けるキティにローラはキスをする。キティは「やさしいのね(You sweet.)」と言い、すぐに別の話に。全くローラの気持ちがわかっていない。
 
 女同士のキスは3度出てくる。次はヴァージニア・ウルフとその姉の。コメンタリーによれば、精神の病に苦しむウルフが姉から生気を吸い取ろうとするのだ。
 最後はクラリッサ(メリル・ストリープ)が同棲中の女性の恋人と。これは先の2つと意味がぜんぜん違うが、10年も同棲している彼女は親友に見え、セクシャルな関係があるようには? 

 クラリッサは、元恋人でエイズ患者のリチャード(エド・ハリス)を介護している。彼は作家だ。今夜は彼の受賞パーティ。しかし…。
 あのエド・ハリスがエイズ患者の役とは。「アポロ13」の頼れる指揮官や「スターリングラード」の冷徹なナチスのスナイパーの印象が強い彼が、ゲイのエイズ患者!
 僕は男を見る目はある、とマイケル・カニンガムが言っていたっけ。エド・ハリスを選んだのは正解だったと。こんな役を受けたハリスもさすが。

 クラリッサは複雑だ。前にも書いたが、リチャードを男性に奪われている。それがルイス(ジェフ・ダニエルズ)だが、リチャードとルイスの関係もとっくに終わっている。ルイスはいかにもゲイ、といった感じのやさしげな男性。
 さて、クラリッサには大学生の娘ジュリア(クレア・デーンズ)がいる。ジュリアは言う、ママの友達はみんな悲しそう、と。コメンタリーによれば、年をとるというのは喪失を積み重ねることだ。だから悲しそうに見えるのだと。
 確かになー。年を重ねることで強くもなり哀しみに鈍感になれる1面もあるけど、何かを失っていく連続なのは確か。

 ところで私は、BBMと「めぐりあう時間たち」に同じ[deserved]という言葉が出てきたことにこだわってしまった。
 賞賛に値する、当然の報い、と賞罰両方の意味があるようだ。だから「めぐりあう時間たち」ではローラの夫ダンが太平洋戦争の激戦に耐えて「いい思い」をするのだし、「牧場主任の『妻』」と関係し「ラリーンか彼女の夫に撃たれる」と告白したジャックは「自業自得」とイニスに笑われるのだが。どちらも同じdeserved。

 ラスト。クラリッサがジュリアを人工受精で産んだ、と聞いてローラは「子供が欲しかったのね。幸せね」と。
 ああ、やっぱりローラは子供を望んではいなかったのだ。それが再見して、いちばん知りたいことだった。

 BBM(74)でも紹介した知人の話をもう1度。彼女を思い出したのは、BBMというより「めぐりあう時間たち」のせいだったと思う。あのとき、私はこう書いた。

【彼女は生身の男性には興味がなかったみたいです。といってレズビアンではありません。性的なことがなくてもOKというか。そういう人もいるのです。でも、結婚を強要された。お見合いして式を挙げ、すぐに妊娠、とてもショックだったそうです。】

 妹さんと同居していた彼女。どちらか一人が結婚すればいいのだから、私がする、と言った。私も同じ状況に置かれたらそうしただろう。何一つ姉らしいことをしてやれなかった妹だ、せめて…。

 しかし何故、彼女は結婚しなければならなかったのか。詳しい事情はわからないし私が口出しできることでもない。ただ、望まない結婚を娘に強いた親がいたのは事実。
 無理に男を受け入れさせられ、子供まで。BBMを知ってあれこれ考えるようになった今、これは犯罪ではないかとさえ思う。当時の私はあまりに鈍感だった。
「あなたの自由のすべてがうらやましい」と言った彼女の真意を当時、私は理解していたか。彼女は元気だろうか、そろそろ成人を迎える娘さんと、うまくいっているだろうか。

 冒頭に貼り付けたのはうちのベランダのアッツ桜。「めぐりあう時間たち」は花と縁が深いから、ということもあるが、実はこの鉢、あの彼女からもらったのだ。

 鉢物をもらってもすぐに枯らしてしまう私だけど、これだけは20年以上、毎年、可憐な花を咲かせてくれている。
 彼女からもらったことさえ忘れてたけど、今年はBBMと出会い「めぐりあう時間たち」を再見したこともあり、とりわけ「よく咲いてくれたね」の思いが強い。
 なんのケアもしないのに、毎年健気に咲いてくれて。「私を忘れるな」という彼女のメッセージなのかもしれない。

 愛し合って結婚できたら素晴らしいけれど、結婚が必要でない、それどころか苦痛な人間もいるわけで。世間体や親のプレッシャーなどで泣く泣く結婚する人間も多いのだろう。

 なんとかして、それぞれが自分らしく生きていける世の中にしないと。それには一人ひとりの考えが変わることが必須。お母さん方の柔軟な教育に期待してしまう。

「それぞれの個人が自分らしく生きていける社会」の確立。それは、BBMや「めぐりあう時間たち」に込められたメッセージでもあるはずだ。

| | コメント (7) | トラックバック (0)

メーキング・ラブ

10m 「メーキング・ラブ」というタイトルだけ見るとH満載映画みたいだが、シリアスなドラマである。「ある愛の詩」のアーサー・ヒラー監督による82年のアメリカ映画。下記の紹介にあるように「夫に男の愛人ができたことから起きる愛の破局を描く」問題作だ。http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD8896/index.html

 一応ビデオも出ていたようだが、今じゃ入手は難しそう。リアルタイムで見られて良かった。結婚後にゲイに目覚めた夫の話、と聞いて絶対に見たかったのだ。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000064VM0/nifty0b5-nif1-22/ref%3Dnosim/503-2004234-7919944

 あらすじ(結末も)を読むと、82年当時、アメリカでこんな映画が作られていたのか、と改めて驚嘆する。当時はあまり感じなかったが、現在のアメリカ映画ではゲイの扱い方が、ヨーロッパ映画に比べて慎重というか遅れてるっていうか。「メーキング・ラブ」を見たからこそ、やっぱりアメリカは進んでる、という印象を受けたのだと今は分かる。

 実は池波正太郎が「池波正太郎のフィルム人生」の中でこの映画について書いているのだ。たいへん肯定的に捉えている、と感じた。「アメリカ映画のホモ・セクシャルも、ついにここまできたか…」と率直に書いておられる。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101156158/wwwkokkoyacom-22/503-2004234-7919944

 医師ザックがクレアと結婚して8年が過ぎた。二人の仲はうまくいっている。しかし、ザックがゲイに目覚めたことで波紋が広がる。冒頭のシーン。出勤するザックの車の横をバイクに二人乗りの青年が通る。後ろの青年は前の彼の腰に腕を回していたかもしれない。ザックは二人をじっと見つめる。この導入部、大好き。

 やがてザックの前に作家のバートが現れる。彼はゲイであることを隠さない。ザックは奔放な彼に誘われるままベッド・イン。自分がゲイであることに気づかされる。告白されたクレアの怒り。「だましてたのね!」違うって、目覚めが遅かっただけ。結婚後にゲイだって自覚したんだから仕方ないじゃん。

 ザックはしかし、バートと別れる。煮え切らない態度のザックを、バートは許せなかったようだ。「次にこういうことがあったら、心をはっきり決めないと」みたいな台詞を残してバートは消える。クレアの説得には時間がかかったが、ザックは結局、離婚する。

 数年後、ある訃報がきっかけで元夫婦は再会する。ザックは男性の恋人と同棲中。クレアは再婚して子供もできた。ラストは穏やかな再会シーン。互いに祝福しあえる関係になったのだ。

「クレアが、男を求めて去っていく夫についに理解を示すのと同様、この映画を見終えた私たちも、われ知らず、彼らの生き方に理解をもつようになってしまう」との池波先生の言葉に深くうなづいた。ハリウッドも大味な大作ばかりでなくこういう作品こそ、DVD化してほしいものだ。

| | コメント (0)

めぐりあう時間たち

めぐりあう時間たち DVD めぐりあう時間たち

販売元:角川エンタテインメント
発売日:2005/11/25
Amazon.co.jpで詳細を確認する

*過去、この映画について3日に渉って書いた日記を転載しますが、めちゃくちゃネタばれです、ご注意ください。レビューにある通り凝りに凝った作りです。同じ映画について3回続けて書くなんて、当時どんなに衝撃を受けたかが分かります、読み返してみても。「めぐりあう時間たち」をまた見たくなりました。

(1)2004年10月17日(日)

 1941年、イギリス・サセックス。入水自殺を図ろうとする作家ヴァージニア・ウルフ(ニコール・キッドマン)。
 1951年、優しい夫と可愛い息子、ロスで幸せな生活を送る妊娠6ヶ月のローラ(ジュリアン・ムーア)。
 2001年、ニューヨーク。エイズの元恋人リチャード(エド・ハリス)の世話をしているパーティ好きのクラリッサ(メリル・ストリープ)。
 何ら関係のなさそうな3人の女性が連続で現れ、戸惑った。V.ウルフのほうは更に過去に遡り、23年「ダロウェイ夫人」執筆中のエピソードが語られる。

 精神を病んでいるヴァージニアはともかく、ローラとクラリッサがどこか不安げに見えるのは何故か。その理由も次第にわかってくる。複雑ではあるが集中してみていれば問題ない。ヴァージニアの遺書には「集中することができません」とあったっけ。

 ローラはヴァージニアの「ダロウェイ夫人」の愛読者だ。決意を秘めてホテルに行く時も大量の睡眠薬とともに、この本をバッグに忍ばせている。
 クラリッサのあだ名がなぜ「ミセス・ダロウェイ」なのか、そしてローラとクラリッサはどういう繋がりがあるのか或いは無関係なのか? といった謎解きを追うだけでも立派なミステリーなのだが。とてもここには書ききれないが、それぞれが抱える人生の辛さ、痛み、歓びにさえつきまとう哀しみ。いろんな個所で共感の涙があふれてしまう。ヒロインたちもよく泣いていたが。

 監督はスティーヴン・ダルトリー、あの「リトル・ダンサー」の!
 あの映画はビリー少年のバレエへの情熱を描いていただけではない、彼に思いを寄せる男の子へもきっちり応えていたビリーは、バイセクシャルともいえるし、ラストシーンはアダム・クーパーが踊る男性版「白鳥の湖」だ。

「めぐりあう時間たち」(02・米)のヒロイン3人も相当に屈折している。V.ウルフには女性の恋人がいたはず、偽装結婚?
 ローラが厭世的な気分になるのは友人が子宮の手術を受けるのが原因? 夫は内気なローラを幸せにすることが生きがいだが、ローラが本当に求めていたのは?

 クラリッサは更に複雑だ、かつてゲイのリチャードと愛しあったものの、彼を男性に奪われ、今は女性の恋人と10年も同棲しているが、本当に彼女を愛しているのか? 
 万華鏡のように見るたび印象が変わる深い映画なのは確かだろう。とりあえず、もう一回見てみよう。

 
(2)2004年10月18日(月)

「めぐりあう時間たち」にはそれぞれ印象的な3人のヒロイン(3人のダロウェイ夫人)が出てくるが、脇の存在も強烈だ。

「クラリッサ、僕は君のために生きてきた。でももう行かせてくれ」。
 2001年のリチャードはそう言って命を終える。エイズを病み疲れて、早く楽になりたかったのだ。かつての恋人クラリッサが献身的に看病するから、彼女のために死なないできたが、もう限界だった。

 1951年のロスでは、ローラがホテルで死を決意している。小さな息子を残して? お腹の中では新しい命が育っているのに? 彼女の苦悩を理解したのは、物語終盤、というより見終わって解説を読んでから、が正しいかも。
 女性を愛するローラは、そのために内気だったのだろうか。子宮の手術を受けるキティは不妊で「女は子供を産んで一人前」とローラに言う。ローラが愛しているのはキティのようなのに。このジレンマ。非の打ち所のない幸せな一家に見えたのに。

 ローラが死のうとしたのは、事情を知ればけして唐突ではなかった。その時、死を選ばなかったローラは、しかし家族には辛い道を、結局は選んでしまうのだ。お腹の子が生まれてから家族を捨てたのだ。自分らしい人生をやりなおすために。

 そして、ローラの息子がリチャードだった、と知ったときの驚き。やけに神経質そうな敏感な子のようだったが、なるほど成長して作家になったか。で、自伝的小説の中では母親は死んだことになっている。リチャードの訃報を聞いてやってきたローラ。夫は癌で死に、娘も早世。老けメイクのジュリアン・ムーア、勇気があるなあ。(やっぱり若く見えるけど)
 こうして意外な形でローラとクラリッサは出会う。
 
 母の失踪、というと、私の母も一時「蒸発」(人間蒸発、という言葉が流行ったころ)したかったそうだ。職場復帰するつもりが、また妊娠でダメになった。
「私は女中じゃない!」
 ある大晦日、母がキレたことがあった。私は母の剣幕に泣きながら部屋の片付けを始めた。母の気持ちが、いまはわかる。とりあえず、母はローラにはならないでくれたのだった。
 映画を見ると、本当にいろんなことを思い出すものだ。 

(3)2004年10月25日(月)

「めぐりあう時間たち」で忘れられないキャラがもう一人いる。ローラの夫、ダン(ジョン・C・ライリー。「グッド・ガール」でも鈍い夫を熱演。貴重な役者だ)。
 映画の冒頭、彼はローラを起こさないようそっとベッドを離れ、花を買ってくる。その日はダンの誕生日だったのだ。

 そんなめでたい日にローラは自殺を図る。息子リッチーと一緒に作ったケーキが上手く出来なかったことが、引き金になっていたのかも。
 ローラが思いを寄せているらしいキティが訪ねてきた時の会話。ローラはこう言う。ダンは戦争で大変だったからいい思いをさせてあげないと。
「いい思い?[Deserved]」キティが訝しげに問う。ローラは「ほら、家族や、このすべて…」。いま見てもすてきな家だった、51年当時に望める最高の生活だったろう。

 場面は変わって23年のサセックス、バージニア・ウルフと夫の会話。新作「ダロウェイ夫人」で主人公を死なせようとするウルフに夫が反論する、意味があるのかと。
 ウルフは考えを変える、「別の人に死んでもらうわ」。

 ベッドの上で膨らんだ腹を出し、そっと撫でてみるローラ。中には6ヶ月の第2子が。それでも死ぬ気なのは、なぜ? 
 どっと水が湧いて、ローラのベッドを呑みこむ。ウルフの入水自殺と重なるイメージだ。ローラは起き上がり「できないわ!」。
 そして息子(別れの時、異様に泣き叫んだのは、母との永遠の別れを察知したからか)を連れて自宅に戻り、楽しいバースディ・パーティ。
 ダンはご満悦で、ローラとのいきさつを息子に語る。「ママを思って南太平洋の激戦に耐えた。彼女を、この家に連れてきて幸せにしてやりたかった。」

 夢は叶ったはずだった。ローラはなんて幸せな奥さんなのだろう。だがローラの心は地獄なのだ。本当に愛しているのは同性の友人で、彼女は手術で死ぬかもしれない。
 キティの手術、自殺未遂…。めまぐるしい一日の果てに夫がベッドに誘う。涙をこらえ「歯を磨いてるの」と時間稼ぎをするローラ。

 ダンはとてもいい人なのだ、素朴にローラを愛し、幸せにしてやりたいと単純に思っている、それが悲劇。
 ローラとダンのカップルだけで映画が一本できてしまうほどの濃密な「めぐりあう時間たち」だった。

| | コメント (2)

メルシィ!人生

メルシィ!人生 DVD メルシィ!人生

販売元:キングレコード
発売日:2003/05/01
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「メルシィ!人生」(00・仏)の主人公は冴えない中年男ピニョン(ダニエル・オートゥイユ)。妻子に去られ、今度はリストラの危機に。
 思い余って窓から身投げしようとして、隣に越してきたばかりの老人ベロンに救われる。彼はピニョンにリストラを避ける知恵を授けるのだが、なんとそれはゲイを装うことだった。
 ゲイを解雇したとなると会社のイメージが。なんたってピニョンの職場はコンドーム会社なのだから。
 かくして、お尻丸出しでレザーパンツで男といちゃつくピニョンの写真が職場に送付され、噂は一気に社内に広まる。会議でもピニョンがゲイなら解雇するわけにいかない、と結論が。

 こうしてピニョンはリストラを回避でき、自信回復、マッチョな上司の態度も変わる。ピニョンを買っていなかった女性上司も彼を見なおし、なんとなくいいムードに?
 ゲイのパレードに借り出されたピニョンのコンドーム型のピンクの帽子姿がTVで放映される、と、それを見ていた息子から「パパ、かっこいい!」と電話が。自分の生き方を貫く姿は男らしく見えたらしい。もともと、母親からパパは駄目男、と吹き込まれていただけなのだ。
 こうして息子からも尊敬されるが、別れた妻は冷たいまま、妻の本性を見た気がして、ピニョンの執着も消え、女性上司とさらに急接近、まさに劇的に変化するピニョンの人生。
 その頃にはゲイ疑惑写真も合成だと、彼女にはばれていたし、めでたくハッピーエンド。
 
 私がオートゥイユをはじめて見たのは「愛を弾く女」、シリアスな役だった。次は「王妃マルゴ」、マルゴの夫役である。が、次に見たのがこれだったので仰天、なんてコメディもうまいことか。
 フランスはシリアスだけでなくコメディの秀作も多い、それもハリウッドみたくストレートではなく皮肉の効いたものが多くて大好き。
 この映画だって、ピニョンを救うベロンは本物のゲイで、20年前にそのことを理由に職場を追われていたりする。時代は変った…のだろうか。でもべつにゲイに理解がでてきたわけではないのだろう。
 コンドーム会社にとってゲイは大事な顧客。ゲイ差別をする会社の製品は売れなくなるから、ピニョンをクビにできなかっただけ。
 痛烈な皮肉も笑いにくるみこんで、気持ちよい佳作。フランシス・ヴェベール監督の音声解説つきでもう一度見てしまいました♪

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

▲アン・リー監督作品 | ▲ジェイク・ジレンホール出演作 | ▲ヒース・レジャー出演作 | ▲ブロークバック・マウンテンⅡ(51)~ | ▲ブロークバック・マウンテンⅣ(151)~ | ▲ブロークバック・マウンテンⅧ(351)~ | ▲ブロークバック・マウンテン | ▲ブロークバック・マウンテンⅢ(101)~ | ▲ブロークバック・マウンテンⅤ(201)~ | ▲ブロークバック・マウンテンⅥ(251)~ | ▲ブロークバック・マウンテンⅦ(301)~ | ▲私見・アカデミー賞 | △LGBT映画 あ | △LGBT映画 い~お | △LGBT映画か、が行 | △LGBT映画さ、ざ行 | △LGBT映画た、だ行 | △LGBT映画な行 | △LGBT映画は、ば、ぱ行 | △LGBT映画ま行 | △LGBT映画ら行 | △LGBT映画わ行 | △「腐女子」を考える | △ジェンダー関連 | △ドラマ | ある日どこかで | アーサー王伝説 | エド・ウッド関連 | クリスト・ジフコフ出演作 | サッカー | ジェラール・フィリップ出演作 | ジェームズ・フランコ出演作 | ジェームズ・スペイダー出演作 | ジャック・ガンブラン出演作 | ジャレッド・レト出演作 | ジュード・ロウ出演作 | ジュード・ロウ関連映画 | ジョニー・デップ出演作 | ダニエル・デイ・ルイス出演作 | ドラマ | パリの本 | ポール・ニューマン出演作 | レオナルド・ディカプリオ出演作 | ヴァンサン・ペレーズ出演作 | ヴィスコンティ作品 | 人形アニメ | 写真集 | 小説あ行 | 小説か行 | 小説さ行 | 小説た行 | 小説な行 | 小説は行 | 小説や行 | 市川雷蔵出演作 | 年下の彼 | 忘れられないコミックス | 忘れられない小説 | 忘れられない随筆 | 戦争の記憶・ヨーロッパ | 日本映画あ行 | 日本映画か行 | 日本映画さ行 | 日本映画た行 | 日本映画な行 | 日本映画は行 | 日本映画ま行 | 日本映画や行 | 日本映画ら行 | 映画あ | 映画い | 映画う | 映画え | 映画お | 映画か | 映画き | 映画く | 映画け | 映画こ | 映画さ | 映画し | 映画す | 映画せ | 映画そ | 映画た | 映画ち | 映画つ | 映画て | 映画と | 映画な | 映画に | 映画の | 映画は | 映画ひ | 映画ふ | 映画へ | 映画ほ | 映画ま | 映画み | 映画む | 映画め | 映画も | 映画や | 映画ゆ | 映画よ | 映画ら | 映画り | 映画る | 映画れ | 映画ろ | 映画わ | 映画書籍あ行 | 映画書籍か行 | 映画書籍さ行 | 映画書籍た行 | 映画書籍は行 | 映画書籍ま行 | 映画書籍や行 | 映画音楽 | 滝口雅子詩集 | 猫いろいろ | 私のルーツ | 美術書CATS | 美術書あ行 | 美術書か行 | 美術書さ行 | 美術書た行 | 美術書な行 | 美術書ら行 | 華氏911 | 追悼 伊福部昭 | *Football | *コメディ映画あ行 | *コメディ映画さ行 | *コメディ映画た行 | *コメディ映画ま行 | *コメディ映画や行 | *家族問題 | サンドラ様blog開設お祝いカード