所轄刑事・麻生龍太郎

所轄刑事・麻生龍太郎 (新潮文庫) Book 所轄刑事・麻生龍太郎 (新潮文庫)

著者:柴田 よしき
販売元:新潮社
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「聖なる黒夜」と出会って1ヶ月がたちました。バレエモードだった他に多忙だの不調だのと、記事が書けない理由はいろいろありましたが、最大の原因は「聖なる黒夜」&関連作品に没頭していた、書きたいことは山ほどあるのに記事にしにくい話ばかりで、と言い訳ばかりですみません。が、拙記事がきっかけで「聖なる黒夜」を手に取りハマッてしまいましたー、とのご連絡を頂き、望外の喜びです。先日、文庫化されたばかりの「所轄刑事・麻生龍太郎」も興味深く読みました、こちらも読んでいただくと、さらに麻生に愛着が増すのでは。

 麻生25歳、新米刑事時代のエピソード、短編集です。一生、家庭はもてないだろう(女は愛せないだろう)と思い悩み、自分には何かが欠落している、と一種、あきらめの心境も描かれます。血の通った生身の人間、しかも弱く、だらしなく、どうしようもない面を抱えているんだと思うと、ほっとしますし、そんな麻生だからこそ好感がもてるんです。完全無欠のヒーローは、私には無用です。

 この時期、もちろん麻生は「彼」とはまだ出会っていません、「彼女」とも。その後の麻生は「聖なる黒夜」でご存知のとおり。そして実は、この作品の前に書かれた「聖母の深き淵」「月神の浅き夢」では、麻生と彼のその後が描かれていたのです。もちろん「聖なる黒夜」を先に読んで正解ですよね。紆余曲折はあっても、彼との絆は深まるばかりで、でも未来なんてあるんだろか? と、ふと考えてしまいますが。やはり出会えたこと自体が奇跡だし、二人はこれでいいんだよね、と思うしかないんでしょうね。

聖母(マドンナ)の深き淵 (角川文庫) Book 聖母(マドンナ)の深き淵 (角川文庫)

著者:柴田 よしき
販売元:角川書店
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月神(ダイアナ)の浅き夢 Book 月神(ダイアナ)の浅き夢

著者:柴田 よしき
販売元:角川書店
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聖なる黒夜

聖なる黒夜〈上〉 (角川文庫) Book 聖なる黒夜〈上〉 (角川文庫)

著者:柴田 よしき
販売元:角川書店
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 正直、小説を読む意欲が失せていた昨今。余生は短い。読みすごしてきた古典を読むだけで精一杯だと。でも、ミステリーとしても優れているが恋愛小説として読める。それも男ふたりのラブストーリー。と知って、きっとこれは当たりだ! と手にとってみました。予感は当たっていました、怖いくらいに。

 この表紙。聖なる夜とはバレンタインデー。その未明とは2月15日。当日の始発はおそらく午前4時台。暗黒の世界、が文庫の表紙なのだと気づいたのは、読了してしばらくたった頃でした。

 具体的に言うならば小田急線、参宮橋駅。彼は凍りつくような冷たい線路に身を横たえ、始発を待っていた。それが何を意味するのか、分かりますね。それが1989年2月15日の明け方のこと。前年まで、その付近に住んでいた私には、「参宮橋駅」というだけで、なんともいえない感慨が沸き起こります。

 竹林がある壮大なお屋敷。しゃれたブティック。新旧さまざまなマンション群。そのなかに点在する個性的な飲食店。ほんの数分歩いただけで、こんなにも毛色の違う世界があったのだ、と、まだ若かった私はどきどきしながら散歩を楽しみました。やがてバブル期に突入。近隣する西新宿は地上げラッシュで空き家が増え、ついでにカラスが不気味なほど増え、私の住んでいたアパートの部屋代は限りなく上がりそうな気配、ついに私はその地に住むことを断念しました。

 てな昔話はどうでもいいのですが。

 そんな経緯があるだけに、この小説はいっそう深く胸に沁みたのです。

 ある「陰謀」がなければ出会うはずがなかった、二つの魂。不幸すぎる再会。じゃあ、出会わない方がよかったのか? いいえ、NON,,としか私には言えません。きっと彼は再会したかったのだから。たとえその人が自分を覚えていなくても。どんな形であっても、自分がそのひとから犯罪者だと断罪されるとしても、二度と会えないよりはよかったのじゃないですか?

「彼」はあまりにも魅力的。「MW」の余波で、つい、実写なら誰が合う? と考えてしまうのですが。ちょっと無理でしょうねえ。下手に映画化して夢を潰されるよりは、ファンのひとりひとりが小説を読んで妄想をふくらますのがいいのでは? そんな魅力的な「聖なる黒夜」です。

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青年は荒野をめざす

MIXA IMAGE LIBRARY Vol.5 偉観絶景 Software MIXA IMAGE LIBRARY Vol.5 偉観絶景

販売元:マイザ
発売日:1995/02/25
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 突然ですが新カテゴリー【「腐女子」を考える】を設けました。私自身が「腐女子」なんですが、自分をネタに思いつくまま書いてみます。今日は五木寛之の「青年は荒野をめざす」にからめての考察ですが、皆さんこんな古い小説(67年刊行)をご存じでしょうか。本物のジャズを求めて19歳のジュンがユーラシア大陸を旅する話です。ドラマにもなったようですが。ちなみに中学2年の時に読みました。

 ジュンは北欧のある町で若い女性から「仕事をしないか」ともちかけられます。彼女についていくと壁にそって青年たちが並んでいます。ジュンはある男性に指名され彼の車に乗りますが、聞けばさっきの女性は「男を男に世話するのが仕事」なのでした。遣り手婆? ジュンはしまった、と思うけれどもう遅い。腹を括って彼の家に同行します。

 ジュンを選んだ彼は作曲家。仕事部屋には奇妙なランプがありました。シェードは唐草模様のなめし革、それも薄くて繊細な。彼はその由来をジュンに話します。

 彼はユダヤ人で若い頃、収容所にいました。ある日、ナチの将校の部屋から、それはそれは美しいピアノの旋律が。のぞいた窓の向こうには裸のユダヤの少女、その背中には一面に唐草模様の刺青が。その少女を肴に将校たちは談笑しているのです。そんな人間が弾くピアノの音色がぞっとするほどに美しい、そのことが彼は許せませんでした。

 彼は、「心が醜い者が弾いたら絶対に美しく聞こえない曲」を書くのだとジュンに言います、ナチが敗走したとき見つけたランプは、その決意を忘れないためだと。唐草模様のシェードは刺青をされたユダヤ人少女の皮膚で出来ていたのです。彼はあれ以来、女性を抱くことができなくなった、ということです。

 このエピソードに私は猛烈に惹かれたわけです。もうン十年も読んでいませんが、大筋はあっているはずです。

 結果的にジュンは何事もなく作曲家の元を去りますが、とにかくあの女衒(男に男を、だから男衒?)には…。男と男をくっつけるのが生業だなんて趣味と実益を兼ねて楽しそう? とニヤニヤしたのは事実です。困った中坊~。

 さて。腐女子の解釈ですが、「男性同士の性的描写にカタルシスを感じる女性」との考えには納得できません。先日紹介した「草の花」には性的描写はありませんが、私は汐見が藤木を、つまり「男性が男性を愛する姿に惹かれ、ある種のカタルシスを感じた」のは確かです。というわけで私の腐女子の解釈は「性的描写の有無に関わらず男性同士の愛にカタルシスを感じる女性」です。

 先日紹介した記事のコメントにありますように、「たとえ性的なニュアンスが一切なくても、他者に自分のカタルシスに奉仕する属性を付与した時点でそれは既に暴力である」(tentenさんが「風と木の名無しさん」のコメントを引用 03月10日)ことを忘れてはいけないと思います。男同士の「精神的な愛だけ」に惹かれる女性がいたとして、「だから私は腐女子じゃないもーん」という言い逃れはできないと思いますね。「性的なニュアンスが一切なくても、他者に自分のカタルシスに奉仕する属性を付与した」のは紛れもない事実ですし、それがある種の「暴力」であることを自覚しないと。

 腐女子だろうと指摘されたときに「腐女子って呼ぶなー!」とキレるんじゃなく、「確かに私は男同士の××を妄想して楽しんでますが、腐れてることは自覚してるし、自分を正当化する気もありません。」と返せばいいのでは? 

 風と木の名無しさんが指摘されたように「この趣味はたとえ自分や仲間には凄く切実なものでも 他者に暴力的視線を向けることによって成り立つ要素がある以上 完全に正当化されるものじゃない」ことを私も肝に銘じます。これからも腐れ外道である自分をしっかりと見据え、時にはおちょくり笑いのめしながら、腐女子道(?)を邁進する所存です。

Book 青年は荒野をめざす

著者:五木 寛之
販売元:文芸春秋
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ジョヴァンニの部屋

Fmpro

ジョヴァンニの部屋

著者:大橋 吉之輔,ジェームズ・ボールドウィン
販売元:Book白水社
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 さきほど「カリフォルニア物語」にavalonさんからコメントを頂き、その中身に驚いた。訳はコメントを一読すればお分かりになるだろう。ジェイクが2年前、「BBM」の撮影中に来日し、インタビューでボールドウィンの「もう一つの国」を愛読書に挙げていたとは!(正確には災害時にたった1冊持って逃げる本)

http://www.flix.co.jp/page/A0000649

「もう一つの国」はかなり前に読んだきりなので、これから再読するけれど、この長編(文庫で600P超)をなんで読む気になったか? もちろんゲイがテーマだからだが? ボールドウィンを検索していて思い出した。当時のめりこんでいた「ジョヴァンニの部屋」と同じ著者の作品だから読む気になったのだ。

 ジョヴァンニという名は、まぎれもないイタリア人のもの。2年前に映画「ジョヴァンニ」に入れあげたが、「ジョヴァンニ」の記事をこちらに転載するときに、この小説のことをふっと思い出し…そして、それきりだった。16世紀に生きたメディチ家の闘将と、1950年代にイタリアの片田舎からパリに出てきたウェイター。あまりにも違う二人だ。

↓ 映画「ジョヴァンニ」の感想は下記から。

http://emmanueltb.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_cb15.html#trackback

「ジョヴァンニの部屋」。あんなに好きだったのに今は手元にない。それでも鮮烈に覚えているのはジョヴァンニが故郷を捨てた理由。彼は若い父親になるはずだった。しかし子供は死産。そのショックの大きさは、映画「スケアクロウ」でライオン(アル・パチーノ)が受けたものと同じだろう。

 ライオンは身重の妻を捨てて出奔。みやげを持って帰るが、5年も放置された妻は「子供は死んだ。永遠に天国には行けない」と電話で告げる。そばにはパパそっくりの坊やが。電話の話は怒りにかられた妻のウソだったのだ。が、イタリア系で敬虔なカソリックのライオンは錯乱する。

 小説のジョヴァンニの怒りはライオンとは違うのだが、私はすっかりジョヴァンニ=若き日のパチーノ、が定着。あれこれ小説のシーンと重ね合わせて妄想してしまった。

 ジョヴァンニとただならぬ仲になるのはアメリカ人、デイヴィッド。恋人がいながらジョヴァンニと関係を持つのは、やはり少年時代の経験のせいだろうか。ジョーイという少年と関係をもったデイヴィッド。しかし自分の性癖を認めることができず、ジョーイに冷たく当たる。

http://terrarossa.exblog.jp/

 上記のブログでまざまざと「ジョヴァンニの部屋」のことがよみがえった。

 デイヴィッドが恋人ヘラのブラジャーが奇妙に見えてくる場面とか(女に違和感を感じる)。ある意味、デイヴィッドはイニスなのかもしれない。

 そしてジョヴァンニ(=ジャック?)がどうなったか。それはぜひ、ご自分で読んで確かめてほしい。幸い他のボールドウィン作品と違い、今も入手は容易らしい。

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ことの終わり

ことの終わり DVD ことの終わり

販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
発売日:2005/09/28
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情事の終り Book 情事の終り

著者:グレアム グリーン
販売元:新潮社
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 映画が気に入っても原作を読むことはほとんどない。大体の場合、イメージが崩れるから。好きな小説が映画になっても…大抵は行かない。
 ほとんど唯一の例外が、この「ことの終わり」だろう。グレアム・グリーンの「情事の終り[The End Of The Affair]」が原作。[the affair]とは[love affair]のことだそうだ。

 発表は51年、3年後の54年には早くも映画化されている。が、私にはこの小説の映像化は想像できなかった。折に触れ開いてきた大事な小説で、ヒロインの日記が主体。これをどう映像化するのか?
 この再映画化も見ないつもりだったが、戦後間もないロンドンの沈鬱な空気がよく描けていると聞いて気が変わり、さほど期待せずに見に行った。

 作家モーリス(レイフ・ファインズ)は、友人の妻サラ(ジュリアン・ムーア)とかつて不倫をしていた。互いに本気だったが、空襲でモーリスが意識不明になった夜から、サラは彼を避けはじめた。

「情事」は終った。サラに新しい男が出来たと思いこんだモーリスは、「第3の男」探しに躍起となる。そしてサラはあっけなく世を去る。
 残されたサラの日記には真実が書かれており、それはモーリスを再起不能なまでに打ちのめした。

「第3の男」とは誰だったのか。サラが心変わりしたのではなかった。もちろんモーリスには理解不能だが。鍵を握るのが、あの激しい空襲だ。モーリスは爆風で2階から階下に吹き飛ばされ、意識不明に。
 目覚めたとき、サラの心は変わっていた、何故?
 そこが最大のミステリーなのだが、爆風の凄さなど、映像をうまく使っていて、この映画化は悪くなかったと思う。
 
 サラは満足して死んで行っただろう、最後までモーリスを愛して。残されたモーリスは悲惨だ、そんなサラを憎んでしまったのだから。

 小説の冒頭、モーリスは「これは憎しみの記録だ」と告白し、最後をこんな祈りで締めくくっている。

「おお神よ、あなたは充分に成しとげられました。あなたは私から充分にお奪いになりました。永久に私をお見限りください。」

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死の泉

死の泉 Book 死の泉

著者:皆川 博子
販売元:早川書房
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 97年秋、おそろしい物語を読んだ。当時、心酔していた皆川博子さんの「死の泉」。待望の上梓だった。

 カストラートの話を書く予定がある、と聞いたのはその3年ほど前だったか。ボーイソプラノを保つために去勢された歌手。映画「カストラート」で有名になったが、皆川さんも当初は17世紀のイタリアを舞台にするつもりだったそうだ。それが、この映画が出来てしまったために、舞台をナチス時代のドイツに移したという。

 400Pを超える長編を2日で読了した。初日の夜には悪夢をみた。というか、浅い眠りの中でストーリーを反芻していたようなのだ。私は巨大な地下の迷路にいる。両側は白く光る壁。岩塩坑なのだ。地下水脈の流れる中、どこまでも絶望的な気持ちでさまよっていく。

 残酷なエピソードも多いが、そこは皆川さん、美的に描いているので大丈夫。真の耽美小説とはどんなものか。知りたい方はぜひご一読を。ミステリーとしても高い評価を得た作品。

 さて。カウンターテナーも、この頃から注目されていた。「死の泉」を読んだ頃、友人がヨッヘン・コヴァルスキーのコンサート(ソプラノのギネス・ジョーンズとのジョイント)に誘ってくれた。その歌声は言うまでもなく妖しく素晴らしい。プログラムには皆川さんが賛辞を寄せていらした。

 皆川さんが言うところの、カウンターテナーの「毒を含んだ蜜」に本当に触れた思いがしたのは、ジョーンズとのデュエット。見目うるわしき男女が歌うのは、アルトとソプラノの美しい恋歌。歌詞が理解できたら、なお倒錯的な気分になっただろう。愛の歌の女声2重奏には、多分にレズビアン的要素があるからだ。あまりの艶っぽさに圧倒された。

 後日、コヴァルスキーの歌うドイツ戦前の流行曲「ベラミ」を聞いて、コンサートのときとは別のショックを受けた。彼は男性テノールとデュエットしていたのだ。男声と絡んで歌う声の色っぽさといったら!

 去勢せずとも、ここまで「蜜のような毒」を含んだ音楽が作れるとは。コンサートのとき以上にくらくらしてしまったのだった。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000064F9Y/qid=1138927043/sr=1-8/ref=sr_1_0_8/503-2004234-7919944

↓皆川さんがカストラートに目覚めたという、「最後のカストラート」の歌声(トラック17)が納められたCD。私も以前、持っておりましたが。老人になってからの歌唱で、かなり不気味な歌声です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005GJ7W/qid=1138927490/sr=1-2/ref=sr_1_0_2/503-2004234-7919944

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詩人ユースティス・チザムの仲間

ジェイムズ・パーティ(著)邦高忠二(訳)
新潮社 / 1972 年

「すごいハードな小説があるのよ」

 誰か忘れたが、そう勧められて読んだのがこの「詩人ユースティス・チザムの仲間」だ。確かにハードでぶっとんだのだが、その後、♂♂が好きな自分がイヤになった時期に、そのテの本をすべて処分した。ジャン・ジュネも稲垣足穂も。ただ、この本だけはとっておけばよかった、とずっと後悔してきた。

 以下、激しくネタばれなのでご注意。

 舞台は、経済恐慌にあえぐ30年代のアメリカ。

 私が魅せられたのは「まともに見たら目がつぶれてしまう」ほどの美少年、エイモス・ラトクリフと彼の下宿先の主人ダニエル・ホウスという青年のエピソードだ。エイモスダニエルを愛し、ダニエルもエイモスを必要としている(夢遊病の状態でエイモスの部屋に行き、ずっとこの下宿にいてくれ、と懇願する)のだが、どうしても素直に愛を告白できない。失望したエイモスは、ふとしたはずみで金持ちの男と同棲を始めてしまう。それを知ったダニエルも逃げるように軍隊に再入隊。そこでダニエルは、サディストのスタッジャー大尉に目をつけられ、執拗に追い回される。

「ぼくの全生涯を通じ、ぼくが心から尊敬し、心から好きだったのは、あなただけだったことを忘れないでください。」エイモスからの手紙を、大尉はダニエルに読んで聞かせる。ダニエルは自分がエイモスに愛されていたことに衝撃を受け、嫉妬に狂った大尉は「おまえを破滅させてやる」と凄み、暴虐の限りを尽くす。ダニエルは生き延びようとする気をなくしていた。エイモスを拒否した自分は罰を受けなければならないと思い込んでいたから、死刑の執行人として大尉を利用したのかもしれない。

 やがてエイモスの訃報が届く。いまやダニエルを生に引き止めておくものは無い。「スタッジャーこそは、ダニエルの唯一の認識者、審判官、さんげ聴聞者、敵、友、公認の死刑執行人であった。」

 スタッジャー大尉はふらふらになるまでダニエルをレイプしたが、これは大尉の一方的な思い入れなので、他人の肉体をつかっての自慰に過ぎないのだが、それを知っているからこそ、彼はダニエルを痛めつけることに躍起となる。超がつくほどSであり、同時に超マゾヒスト。スタッジャーはきっと、ダニエルを破壊したいのと同じくらい自分を破壊したかったのだ。自分を壊したい欲望、それを叶えてくれる理想の相手がダニエル。一方のダニエルも意識の底では大尉を求めていたのかもしれない。夢遊状態でエイモスの部屋を訪れたように、ダニエルは入隊した夜、全裸(!!)で大尉のテントに現れていた。

 そして二人は破滅へと突き進むーー。

 私がこの話に執着するのは、ダニエルとエイモスが肉体的には結ばれないままで終わるからだ。私が究極に好きなパターンだ。スタッジャーのサディズムなど「結ばれずに終わる愛」の前ではまったく無力で色あせて見える。互いにあふれるほどの想いを抱きながら想うだけで決して体を重ねることはない。この距離感が最高にエロティックだと分かってくれる人にこそ味わってほしい作品だった。

 図書館で借りて、20年ぶりに再読してみて、当時とは比較にならないほど深く読めたと思う。復刊comにリクエストしようかと思うが、とりあえず古書でも買えるようだ。http://www.super-jp.com/bookpick/shelf_new/200.html

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