山猫

山猫 イタリア語・完全復元版 DVD 山猫 イタリア語・完全復元版

販売元:紀伊國屋書店
発売日:2005/06/25
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2004年11月05日(金)

 赤茶けたシチリアの大地、サリーナ公爵家の門から邸宅へと映し出されていく冒頭だけで、胸がいっぱいになった、このヴィスコンティの稀有の名作を再度スクリーンで見られるという感激で。
 10年以上前に銀座で見たと覚えていたが、資料によれば、それは90年末。C.カルディナーレの、白いドレス姿の前売り券も残っている。
 その時は、埃っぽいやせた土地、バート・ランカスター演じるサリーナ公爵のワルツの優雅さ、ドロンとカルディナーレの美しさしか記憶にないのだが、今度はずいぶん違う。
 
 十数年の時を経て、私はそれだけサリーナ公爵の年に近づいた。パーティで胸を押さえ、ふと死を予感するシーン。その深みにも気づかなかった。美しい二人も、今は年老い、ランカスターはじめ他の主要キャストはほとんど逝去。
 そして何よりも私が実際に舞台となったシチリアに、ツアーで数日とはいえ、足を踏み入れた、2000年の年明けのことだ。

次々に諸国から侵略され、異文化が栄えたシチリア。ギリシャ神殿あり、スペイン風宮廷あり、イスラム風寺院あり。1度に色んな国に行った気分になれるのだ。観光客的にはお得な土地だが、シチリアにとってはそんな単純な話ではないのだろう。

「山猫」の舞台は1860年、イタリア統一前夜。シチリア王国は幕を閉じ、イタリア共和国の一部となる。サリーナ公爵も時代の流れに逆らおうとはしない。
 甥のタンクレディ(アラン・ドロン)と金満家の娘アンジェリカ(C.カルディナーレ)との結婚をおぜん立てしてやり、自分は忘れ去れたいのだという。私なら、そんなふうに言えるだろうか、忘れないでほしい、とあがくのではないか。

 しかし人は必ず滅びるもの、忘れ去られるのも必定だろう。
 こんなことを書きたいのではなかった、というか「山猫」に関しては書きたいことがいっぱいで考えがまとまらない。
 出演者だけでも、B.ランカスターは西部劇だけの人だと思ってたら堂々たる貴族を演じてアラン・ドロンも霞むほどだったし、何故かジュリアーノ・ジェンマも出てたし(赤い軍服が似合う)、公爵の長男パオロ、どこかで見たような、と思ったらピエール・クレマンティでビックリ、などなど。

 とにかく見られてよかった「山猫」なのであった。3時間6分、しんどくなかったといえば嘘になるが、いま再見できて本当に幸せであった。

山猫 Book 山猫

著者:ランペドゥーサ
販売元:河出書房新社
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2004年11月06日(土)

「山猫」を見ながら私の胸に渦巻いていたのは、サリーナ公爵を始めとするシチリア貴族の没落への予感であった。

 パレルモでは海辺のホテルに泊まったが、隣の敷地は豪壮な邸宅だったようだ。痛みが激しく、緑のネットがかけてあった。取り壊しも近いものと思われた。ネット越しにも見てとれるあまりの崩壊ぶりに胸が痛くなった。
 もとより廃墟大好きな私、こういった光景を目にすれば、なにか安らぎを感じるはずだった。形あるものは全て滅ぶ、そのことを廃墟や墓地は教えてくれるのだ。

 が、それにしても、あの邸宅(だったもの)の荒廃ぶりは傷ましすぎた。諸行無常とでもいおうか。何故、荒廃するかというとメンテナンスができない、手入れする召使をたくさん雇うことができなくなるからだ。
 そんな単純なことさえ思い至らなかったが、貴族の財力がなくなれば屋敷の維持どころではないのだ。塩野七生さんの映画エッセイ「人びとのかたち」を読んでようやくわかった。

 シチリアから戻って、あるシチリア名家の没落の記録を読んだ。たくさんの企業や工場を持っていたのが、次々と手放していく。陶器工場はジノリに売却したそうだ。宝石なども売却するがどうにもならない。一度崩壊を始めた屋敷を救えないのとどこか似ているような気がする。
 哀しみに満ちた島、というと感傷にすぎるのだろうか、シチリアは私にとってイタリアの中でも特別な土地だ。

 映画の舞台の1860年代から100年以上の年月が流れ、シチリアはサリーナ公爵が予言した通りになった、と塩野さんは書いている。誇り高い獅子や山猫に取って代わり、人の弱みにつけこんで私腹を肥すジャッカルがはびこっていると。

 何も変わらなかった、シチリアの人が変化を望まなかった、それが原因だろうか。一部の人は変革を目指しただろうが、それだけではダメなのだ、と公爵は明言していた。
「山猫」の原作者はシチリアの貴族で、祖父をモデルにこの小説1作だけを残した。生前は出版を断られ続け、死後に出版されるや、ベストセラーになったという。

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