聖なる黒夜(2)

聖なる黒夜〈下〉 (角川文庫) Book 聖なる黒夜〈下〉 (角川文庫)

著者:柴田 よしき
販売元:角川書店
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 この小説の主人公2人に振り回されるうちに、早くも8月になってしまいました、ご無沙汰しております。

 前の記事で「男ふたりの恋物語」と書いたのは不適切だったような。韮崎や及川や、田村のことを忘れていました、すいません。それほどにメインの2人は運命的なカップルなんです、はい。

 さて、私、バレエ熱が再燃しておりまして、いろいろ興味深い映像をYouTubdeで見ておりますうちに。私がぐたぐた書くよりも、映像(バレエ)でもって「聖なる黒夜」の世界を少しでも理解いただけるのではないか、とふと思いました。

 メインは、この男2人の踊りでしょうか。イケメン(髪が短いほう)なマチュー・ガニオの解釈はこちらです。もちろん「聖なる黒夜」の2人は大文字付きのLoveなのであって、lustだけではありませんが。マチュー@サン・ルーの解釈を読んだあとで見直すと、あの切なげな表情はやはり愛そのものだと。一方のモレル@ステファン・ブリヨンは、サン・ルーを憎んでさえいるような。もちろん愛憎は表裏一体ですけどね。

 なにが言いたいのかわからないですが、とりあえず復活報告まで、でした。

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駈込み訴え

文豪ナビ 太宰治 Book 文豪ナビ 太宰治

販売元:新潮社
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 北丸雄二さんが「太宰治をクイアする」という記事を書かれています。テキストはずばり「駈込み訴え」。この記事でも紹介しましたが、中学時代の私の愛読書です。

【「太宰が意識の上に恥ずかしげもなく引きずりだした愛」と記したのは、まさにそれこそが太宰文学の核心であるだろうからだ。(中略) ユダはキリストへの愛ばかりか、「ああ、ジェラシイというのは、なんてやりきれない悪徳だ」という述懐で自らの嫉妬妄想を、「ああ、もう、わからなくなりました」という混乱の自覚で恋愛妄想を、「逆にむらむら憤怒の念が炎を挙げて噴出したのだ」という解説で迫害妄想を、そしてこの小説最後の結語「私の名は、商人のユダ。へっへっ。イスカリオテのユダ」という場面の「へっへっ」に象徴される空恐ろしい自意識の自嘲で、自らの誇大妄想をも自覚しているのである。】

「ジーザス・クライスト・スーパースター」はキリスト教会から熾烈な非難を浴びたそうです。
キリストを「He's a man. He's just a man(ただの男)」と歌った「私はイエスがわからない」はこちらから。しかし、私がいちばん好きなシーンはキリストの39回の鞭打ち! です。「パッション」では、ただもう残酷で見てられませんでしたが、こっちのキリスト様のリアクションはどうにもこうにも色っぽい。初めて見た17歳(入試のために行った京都で・汗)のときから忘れられません。地獄行き必至? どうせ異教徒だもーん。

 脱線しましたが、「ジーザス…」は【全編、ユダの目をとおした悩める男キリストが焦点、
ユダは彼イエスを愛するがゆえに彼を裏切り銀貨30枚で彼を売り、そして最後に彼と口づけをしてのちに縊死するのである。キリスト教会は当時、マタイ伝26章49などで新約聖書にも記される劇中でのこの男同士の接吻にも異常な嫌悪感を示した(浅利慶太演出による日本の物マネ版ではユダとキリストとのキスは物マネの分さえも弁えずにおこがましくも割愛された)。】

 劇団四季バージョンでは、ほっぺにチュ! もカットですかい信じられない! やっぱり見る気がうせました。問題のキスシーンはこちら。すぐ出てきますのでお見逃しなく。

【朗々たる愛のクィアな確信犯である太宰を、どうして三島があれほどまでに毛嫌いしたか、川端が昔の「中学校の寄宿舎」を振り返るように眉を顰めたか、志賀が鼻糞でも丸めるように太宰を無視したかの理由の一つが見えてくる。

 それが見えたとき、日本文学もそしてまた、自分がクィアであると(クィアという言葉を知らなくとも)自覚している者と、自分がクィアであることを糊塗しようとする輩と、そしてその2つがどうしても理解できないストレートな道を勝手にうねりながら進む連中との3種類に、ぱたぱたと分類できてしまうのである。】

 三島がそんなに太宰を嫌っていたとは。その後、「クイア・ジャパン」(Vol.2)にも同様の記述を見つけました。太宰は「生まれてすみません」なんて書いてるしなー。中学の頃、太宰を読んでほっとしました、自分以外にもこんな弱い人間がいたんだ、と思えたから。

 北丸さんは「走れメロス」にも言及されてます。中学の教科書で知った話ですが、ラスト、確かにメロスは【(たとえ濁流を渡り山賊を蹴ちらしてきたにしても、だ)なんだか無意味に「まっぱだか」】なのですから、どうしてなんだろうなあ、と私は不思議に思ったことでした。非常に長い記事ですが、示唆に富んでいます。ご一読をお勧めします。

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クリストファー男娼窟

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Book クリストファー男娼窟

著者:草間 弥生
販売元:而立書房
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 本日はまず、先日BBM(283)でご紹介しましたこちらの記事についてお詫びがございます。後半の栗本薫さんに関する件です。私、「居直りはいけませんね。」と書いておりますが、それはひとえに、

私は同性愛への偏見と闘うためにやおいを書いているのだ

 上記が栗本さんの発言だと信じ込んだためですが、記事中で紹介された往復書簡をきっちり読んだ方からご連絡を頂きました、こんなことを栗本さんは書いていないそうです。全文読んでから紹介すべき所、文字化けしていたためもう読めないのだと思い込み、ブロガーさんの記述を鵜呑みにして「居直りは云々」と書いてしまったことを厳しく反省しております。文字化けの件はエンコードで解決しました。これから少しずつ読みますが、何かを判断し意見を述べる場合は必ず双方の言い分を聞いてからでなければ、と痛感した次第です。

 ただ、このブロガーさんの、

【萌え漫画に描かれている女性が、男性にとって都合のいい幻想に過ぎないのと同じように、やおい小説に書かれている同性愛者の男性など、女性(腐女子)にとって都合のいい幻想でしかない。
 そこには、リアルの女性や、リアルの同性愛者を尊重するような世界観はない。尊重などしていたら「萌え」にならないからだ。】

 というご意見はごもっともだと思います。

 また、この記事はコメントが異様に充実しています。特にtenten さんのコメント(03月09日)に引用されたご意見は腐女子として傾聴すべき点がたくさん。

【(BLには)褒められたもんじゃない差別意識やら人権侵害が垂れ流されてることはいくらでもあるし。 (意外なところで実は女性差別的表現も結構入ってたりするよね) 】

【傷(ジェンダー的違和感?つったら痛いけどまあそうでしょう)をやおいに癒やしてもらった みたいなのは コア腐女子としては分かるけどさ。その傷とやらを免罪符にやおいを正当化するのは違うよなあ】

 などなど。

 ようやく本題に入ります、先日「青年は荒野をめざす」に男に男を世話する女性が、という話をしましたが、それで思い出したのが草間弥生の「クリストファー男娼窟」です。こちらにも似たような女が登場します、「青年は…」のあっけらかんとした女と違い、かなり屈折してますが。舞台はNYのクリストファー通り(記事内にマシュー・シェパード殺害犯について言及があります)。

「天蓋付きベッドから公衆便所まで」(女性作家がゲイを扱った作品のことでしたっけ?)というけれど、天蓋付きベッドが森茉莉の「枯葉の寝床」なら、この「クリストファー男娼窟」は間違いなく公衆便所。それもドアを開けたとたん悪臭に吐き気がし、汚物まみれの内部に怖気がふるい、いかに切迫していようと到底使う気になれず、立ち去ろうとするが足が動かない。案の定、嘔吐が始まる。ゲエゲエやっていいかげん吐くものがなくなり、胃液まで吐きつくす。はっと我に返り涙目のまま、ふらふらと立ち去る。そんな強烈な作品です。

薔薇くい姫・枯葉の寝床 Book 薔薇くい姫・枯葉の寝床

著者:森 茉莉
販売元:講談社
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 上記のAmazonレビューは男性のが多いようです。【BLは「売春」を「援助交際」「割り切り交際」と言い換えるのと意義的には変わらない男性同性愛小説】とはずいぶん手厳しいですね。

「天蓋付きベッド」はこのくらいにして「公衆便所」に移ります。「クリストファー男娼窟」の主人公ヤンニーは香港出身の女子学生。コロンビアの哲学科(ジェイク?・汗)に籍をおき、副業としてコロンビア、NY大学などの学生を男に斡旋しています。その心理は複雑、では済まされないものが。

「男共を、売春業にかこつけて金で人に賃貸しするのは、むしろ胸がせいせいする位、心底は男への憎悪で一杯なのだ。」

 ここでヤンニーの過去が示されます。1人の男によって心身に深い傷を負い辛酸を舐めさせられた。男全体が憎くてしょうがないわけです。だからヤンニーは「若いカナリアに男色家たちを世話する時の、自分の悪意というものを良く知っていた。」

 ヤンニーはヘンリーという男娼と肉体関係もありますが、別に彼を愛してはいない。ヘンリーも「二言目には客を紹介して欲しいと言うくせに、男色罵倒は聞き出せばきりがなかった。」そのくせ、ヤンニーを抱いても心は空虚なまま。

 滅入る話です。ずーんと落ち込みます。他の2作「離人カーテンの囚人」(キーコは毎日、大人になっていくことに恐れおののいていた。大人の世界は愛憎の取り合いと性慾の戦争に明け暮れている。セックスをやりすぎて巷の性器はことごとく荒廃しているのだ。)「死臭アカシア」(生き物たちはことごとくその死骸を大地にころがしていた。ふきだめのようにオンナの足元や周囲に累々とうずたかく積み上げられた、青春の残骸は夜を迎えようとしている。)も凄絶、大体タイトルからして退きたくなります。

 が、たまにはふやけた精神に往復ビンタを食らわすような、こんな小説もいいのではないでしょうか。「公衆便所」なんて書きましたが、本作の衝撃度を表す言葉が他にみつからないからで、実態は天蓋付きベッドに負けないくらい「きらびやかな」公衆便所なんです。あとがきに、草間さんはこう書いています。

「今迄、瞬間ごとに魂がきらびやかな何ものかに餓えていなくては、私は一行の文章も、一つの彫刻も創れないという宿命の只中に身をおいてきた。」

 草間さんてやっぱり凄い。57年、ちょうど半世紀前に日本を飛び出し、世界の前衛芸術の先端に身をおいてきたんですね~。

 ところで腐女子がちらっと漏らす「傷」が気になるのですが。傷をやおいに癒してもらった、というのがよく分かりません。私に「傷」はあるんでしょうか? 私のゲイ的なるものへの目覚めは11歳よりもっと前だったのかもしれず、その頃の傷といえば肥満児だったのでからかわれた位しか思いつかないのです。

無限の網―草間弥生自伝 Book 無限の網―草間弥生自伝

著者:草間 弥生
販売元:作品社
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草の花

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Book 草の花

著者:福永 武彦
販売元:新潮社
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Photo by (c)Tomo.Yun ;礼文島のエゾゴマナ)

「一人は一人だけの孤独を持ち、誰しもが鎖(とざ)された壁のこちら側に屈み込んで、己の孤独の重味を量っていたのだ。」

 いま読んでも心がふるえます。「草の花」にこの一節を見つけた夜、なかなか寝付けず涙が耳を伝い、枕を濡らしました。人は誰もが孤独なのだ、孤独はどうしようもなく人生につきまとうものなのだと識ってしまった私。15歳、高校1年の秋でした。

 その意味で「草の花」は忘れられない小説です。人生について深く考えさせられる名作ですが、実は腐女子の愛読書でもあるのですね。検索したら色々ヒット、やっぱりね。当時の私もそっちが目当てでこの本を買い、冒頭の文にガーンとやられてしまったのです。下心満々の小娘は文学の返り討ちに?

【藤木の眼、いつも僕の心を捕えて離さなかったのは、この黒い両(ふた)つの眼だ。】

 主人公、汐見の独白。

 あー、ダメダメ。この作品については「ずばり東京」みたく腐れモードになれませんね。書きながら思わずあちこち読み返しちゃって。

【僕にはそんな一時的なものとは思えないんです。と僕は少し声を大きくして言った。僕はこれが本当の愛、決して二度と繰り返されない愛だと思うんです。だからこそ僕は苦しんでいるんです。そんな、過渡的だなんて……。

 そう、言い過ぎだったら御免よ。それじゃ君の藤木に対する気持ちの中に、やましいものは何にもないわけなんだね?】

 汐見と春日さんの会話。

【だって仕方がないじゃないか、藤木。ぼくは苦しむように生まれついているんだ。

 それでも、僕のことでは苦しんでほしくないんです。

 愛していれば苦しくもなるよ、と僕は言った。】

 上記は当然、汐見と藤木の。「ああ月がでます。」のあたりはやっぱりいいなー。

 さっぱり分かりませんよね、すみません。じっくり読み直したくなりましたので、今日はこのへんで。結論は、私にはもうハードなシーンは要らない。名作はやっぱり名作だ、といったところでしょうか。

「草の花」というタイトルの出典は下記です。

人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し。
「ペテロ前書、第1章、24」

↓粗筋。

【研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐり合った藤木忍と、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、その儚く崩れやすい青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上を覆った冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。】

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家畜

家畜 Book 家畜

著者:フランシス キング
販売元:みすず書房
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【「みじめな境遇に在って、しあわせの時を想い起こすより
悲しきはなし」──ダンテ

「あまりに多く愛することは、取り返しのつかぬ不幸に相手を
追いやってしまうことである」──ボシュエ

 巻頭のふたつの文章を読んで、やはりBBMを思い出してしまいました。まるでイニスではありませんか。
 しかもこの小説、ゲイのイギリス人作家が、美男のイタリア人に恋をするお話です。】

 こんなメールを頂き、即ゲットしたフランシス・キングの「家畜」。久々にのめりこんで読める小説と出会えた喜びでいっぱいです。そして唖然呆然の結末。先月のうちに読破していたのに、なかなか感想がまとまりませんでした。

「彼らは狼を犬にし、さらに人間そのものを、人間の最良の家畜にしたのだ」(ニーチェ)。

 こんな言葉も載っています。表紙絵はダンカン・グラントの「青い羊の屏風」です。

 イギリスの作家でゲイのトムソンは下宿人のアントニオに強烈に惹かれます。しかし彼はフィレンツェに妻子がいる上、パムという女性と親密に。平たく言えば三角関係になるのでしょうか。しかし複雑、読めば読むほど混乱してきます。さすがイギリスの小説と言いましょうか、誰も彼もが素直でない。ねじれた関係は読み進めば進むほどさらにねじれてどうしようもなくなります。

 アントニオは元はプロのサッカー選手、いまは哲学専攻でイギリス留学。面白い経歴ですね。サッカー選手というと、こんなエピソードを思い出します。元日本代表で現解説者のMさん。現役時代、「ゴールを決めると抱き合うのは何故?」と尋ねられ「愛し合っているからです」と真面目な顔で応えた由。それはさておき、アントニオも屈折しています。少年時代に面倒をみてくれたテキサス(!)出身の牧師がアントニオのトラウマらしいのですが、具体的な内容は明かされません。

 陽性でありながら秘密を抱えているらしいアントニオ。ジャレッド・レト主演で映画化してほしいです、ずっと彼のイメージで読んでしまいました。アントニオは33歳という設定ですが35歳とは思えないジャレなら難なく演じられそう(女とより男と絡む方が似合うし)。アントニオがまた、べたべた男にさわるんですよね。さすがイタリア男?

イタリアを丸焼き!―意地悪な日本人が見た文化国家のウソ・ホント」という本を読んだことがあります。イタリア好きには評判の悪い本です。「国によって価値観の違があるということもわかっていない。如何に外国と言えばアメリカという考え方に固執しているか」とか。確かにアメリカ礼賛が激しい本、著者はその後アメリカで仕事してるんじゃなかったかな。

 私がこれを読んだのは99年、フィレンツェに発つ直前でした。それまでイタリア最高! 的な本ばかり読んでいたので、ショックを覚えつつもイタリアに過剰な期待を抱かずに済んで良かったです。著者いわく、イタリア男は全部ゲイ? 人前で平気でべたべた触りあうんですって。著者の友人(アメリカのゲイ男性)は、イタリア男のそうした面に戸惑い、「いったい誰がゲイだかそうでないのかさっぱり分からない、仕方ないから全部違うということにした」。「モーリス」がイタリアではゴールデンタイムにTV放映された件もこの本で知りました。BBM予告に再会キスが入ってる国だけありますね?

 ここで「家畜」の背景など。元々は69年に出版されるはずだったのが物議を醸して翌年、大幅に内容を変えて発表。日本ではようやく昨年、オリジナルに基づく訳が刊行されたというわけです。キングは日本に4年半滞在、三島由紀夫とも親交が深かったようです。「家畜」には日本人留学生も出てきますが実に日本人らしく描かれているのもそのせいでしょうか。またアントニオはキングの思い人がモデルとか、訳者あとがきは本編なみに興味深いものでした。

「おお神よ、どうぞお教えください、愛しつつ、愛さずにいられる術(すべ)を!」

 最も印象に残ったこの台詞が、やはり「家畜」のキーワードだったようです。

 しかしイギリスの小説って独特の何かが…。大昔、渋谷陽一がFM番組で紹介していた小説の粗筋を思い出しました。作者もタイトルもわかりませんがイギリスの作品です。ある家にやってきた客がなかなか帰らない(帰れない)。客は「帰ってくれって言ってくれればいいのに」、家の人は「早く帰ればいいのに」と思いつつ、互いにホンネを口に出せないまま1年がたち、客は病気になり、とうとうその家で死んでしまった、というのです。なんだそりゃ~。

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カイン

いま、危険な愛に目覚めて Book いま、危険な愛に目覚めて

著者:栗本 薫
販売元:集英社
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 ベランダの白百合がそろそろ咲きそうです。受胎告知の絵画では天使がマリアにこの花を差し出す、百合は純潔のシンボルです。なのに、ぷっくり膨らんだつぼみを見て、あるものを思い出した私はやっぱり腐れてますね。「寝そべる姿は百合の花」なんて書いたヤツだし仕方ないか。何を思い出したかというと、連城三紀彦の短編小説「カイン」です。

 カインとは言うまでもなくエデンの園を追放されたアダムとイーヴの最初の子供であり、弟のアベルを殺した、人類最初の殺人者でもあります。そのカインをタイトルにした小説が「星殺し」と同じく、「いま、危険な愛に目覚めて」に収録されています。「星殺し」の感想は下記からどうぞ。

http://emmanueltb.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_1682.html#comments

「他の花のように開ききらず、先端の口を少し開けただけの花。この花が俺を誘っている。俺はズボンのベルトを外した。かすかな金属音に答えて、花はもう嬉しそうに震えている。」

 この先がどうなるかは、ご想像にお任せします。

 主人公の「俺」は精神科医なのですが、2重人格の患者に手を焼きます。彼は凶暴なタカシであり、温厚なアキラでもあるのです。

「タカシが要求したのは酒だけではなかった。『男をこの病室に呼んでくれ』と訴えた。『どんな男だ』『男なら誰でもいいさ。新宿の裏町へ行けばいくらでも拾える。』」

「タカシは『男なら誰でもいい』と叫びながら目の前にも男がいることに気づいていなかった、いや気づいていながら『世界で一番嫌いだ』という理由で、俺もまた一人の男であることを、欲望の捌け口になることを無視し続けた。」

 なかなか複雑な関係ですよね、俺とタカシ。タカシの別人格アキラも絡んできて大変な展開になります。「星殺し」とは全く違った魅力のある短編です。ちゃんと読み返してみないと。

 ところで私は連城三紀彦のもう1つの短編が忘れられなくて…、しかしタイトルを失念していて探しようがなく。つくづく手放したのが惜しまれます。ざっと内容を書いておきますね。

 主人公の「彼」は大学生。ラグビー部のある先輩に不思議な感情を抱きます。先輩は一見さわやかな美青年ですが、どこか白い布についたシミのような汚れた部分があると彼は感じる。2人は互いの気持ちをけして明かすことはない。互いにどうしようもなく意識していることだけは読むほうにも伝わってくるのですが。先輩には彼女もいます。

 印象的だったのが合宿でのエピソード。彼が先輩に命じられて林の奥に飛んでいったボールを取りにいくと先輩の彼女がいて、「探し物は私の中にあるわ」。彼はカッと頭に血が昇り、猛然と彼女に襲い掛かり、純潔を棄てます。彼女をそこで待たせたのは、もちろん先輩でした。

「カイン」同様、複雑な展開です。連城三紀彦は時々、こうした粘着質の、暗い水底を覗くような小説を書いていたようです。て、ほとんどまともに読んでないのですが。とりあえず「カイン」には一読の価値があることは間違いありません。

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心は孤独な狩人

The Heart Is a Lonely Hunter Book The Heart Is a Lonely Hunter

販売元:Mariner Books
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 昔々、「愛すれど心さびしく」という映画を見た。その原作が「心は孤独な狩人」。早くに手に入れてたくせに、つい最近、やっと読む気になった。「もう一つの国」がなかなか進まない(ジェイクの愛読書なのに~・涙)ので、ふとこちらに手を伸ばしたら。すらすら読めてしまったではないか。ン十年の死蔵はなんだったの?

 マッカラーズ22歳時の作品、と今ごろ知って驚く。22歳でこんなに人間の孤独を書けるものなんだ。しかしその後、不遇のうちに50歳で他界。いま日本で手に入る著作は少ない。この本(手持ちは新潮文庫・河野一郎訳)も復刊comで復刊交渉が決まったとか聞いたが、現在は絶版のまま。

 舞台は30年代のアメリカ南部。主人公は聴覚障害者のシンガーだ。彼の境遇とsingerという名の皮肉さ。彼の唯一の友はギリシャ系で知的障害気味のアントナープロス。2人は10年も同居しているが、病気を機にアントナープロスの人格が変わり、手に負えない事態になる。ついに遠くの町の精神病院に入れられてしまう。アントナープロスの従兄弟の差し金だった。

 二人の関係は、シンガーの執着振りを見ると、一瞬、同性愛かと思わせる。実際、この話をそのように解釈している人もいる。が、私は友情の域は超えていないと見た。シンガーの友への思いはあまりに熱烈で、しかも報われない一方通行だ。

 発病後のアントナープロスは食べ物に執着するのみで、シンガーの手話にも答えようとしない。すてきなガウンを見舞いに持参しても、食べ物でないとわかると見向きもしないのだ。それでも通い続けるシンガー。

 一方、シンガーは町の人から慕われる。シンガーは読唇術が出来るというので皆は話を聞いてもらい、癒される。しかし現実にはシンガーはアントナープロスにこんな手紙を書き送る。「みんな、よくも飽きずに口を開けたり閉じたりできるものだと感心します」。その手紙もアントナープロスが読むことはない。

http://www.fan.hi-ho.ne.jp/harp/others2/lonely.html

 映画ではアラン・アーキンがシンガーを熱演していた。シンガーを慕う下宿屋の少女ミック(ソンドラ・ロック)もなかなか良かった。映画では友を失い寂しいシンガーがミックと「話し」たがるが、あいにくその日、ミックはボーイフレンドと初体験をしたばかり、ナーバスで人と会える状態ではなかった。すげなく断られたシンガーは…。

 ラストはあまりにも甘ったるく、13歳だった私でさえシラけた。「シンガーさん、私はあなたを愛していました」。シンガーの墓の前で涙するミック。

 原作は、こんなもんじゃない。シンガーはアントナープロスが精神病院で死んだことを知り、見知らぬその町を彷徨った後、12時間も列車に揺られて戻ってくる。手荷物は置き去り。下宿に戻ってから胸に弾丸を撃ちこむ。ミックの存在などシンガーにとってはゼロだった。

 BBMを見たいま、「孤独な狩人」とはあらゆる人間のことなのだと分かる。しかし一体、何をhuntするのだろうか。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=116

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くだんのはは

くだんのはは Book くだんのはは

著者:小松 左京
販売元:角川春樹事務所
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 ホラーは苦手なので映画も小説もほとんどパスだが、小説では何が一番怖かったか? 文句なく、この「くだんのはは」である。「九段の母」ではありませんよ、念のため。うっかり読んでしまってエライ目にあった。今も思い出すと背筋がゾーッとします。

 太平洋戦争末期、「僕」は裕福な家に下宿していたが、すすり泣く少女の声に興味を覚え…。決して覗いてはいけない部屋を覗いた「僕」の目に映ったのは?

 国が滅亡するとき必ず現れるという「それ」を「僕」は見てしまったのです。そういえば山岸涼子さんの「ひいなの埋葬」では、雛人形が歩きだすとき梨元家が滅ぶ、という設定だたっけね。

 どれほど怖いかは是非、お読みになって確かめてください。

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蜘蛛女のキス

蜘蛛女のキス Book 蜘蛛女のキス

著者:マヌエル・プイグ,マヌエル プイグ
販売元:集英社
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「あんたは蜘蛛女だ。男を糸で絡めとる。」

「素敵! それ気に入ったわ。」

 これが男同士の会話だと知ってぶっ飛んだ。「翻訳の世界」の記事に載っていたのだ。当時、細々と翻訳の勉強をしていた私、勉強よりシュミの方面で興味が湧き、地元の図書館にリクエスト。バイト生活だったから、なるべく出費を抑えたかったのだ。一読して気に入ったので、結局、自分でも購入。その後、映画にもなったが、私は原作のイメージが壊れるかも、と敢えて見には行かなかった。

 主人公モリーナをイメージすれば、この表紙のイラストのようになるのだろう。が、読んでいる間、いつも暗闇の中のモリーナとバレンティンしか想像できなかった。闇の中の声と触覚だけ、なのだ。それはブエノスアイレスの刑務所の中。女言葉の男を愛する男と、そうではないテロリスト、本来なら無縁に終わったはずの二人。

「触ってもいい? こんな風に触ってもいい? こうしても? あたしに撫でられて、気持悪くない?」

 おずおずとバレンティンに触れていくモリーナ。二人のイメージはまったく掴めず、手探りして触れた感覚だけが頼り、みたいな。何せ暗闇の中なのだ。頭の中で、画像ではなく触覚を想像する、という妙な感覚を経験した。モリーナがバレンティンに触れたときの感じ。また、その逆。少しずつ心を通い合わせていく二人だが、明るい未来など、ない。

 モリーナは映画狂だ。彼女が語る映画を具体的に知っていればもっと楽しめたのかもしれない。映画やミュージカルで見るのがふさわしい作品かもしれないのだが、あの闇の記憶が大きすぎて、あの原作だけでいいや、という気分なのだ。

 もう本も手元にないのだが、バレンティンがモリーナに「自分を粗末にするな」と何度も言っていたのが印象的だ。他者を思いやることも大事だが、まず自分を愛さなければ。でも私自身をを含めて「こんな自分は嫌いだ」な人間が多いような気がする。

 

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