ルネッサンス

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Book ルネッサンス

著者:秋里 和国
販売元:小学館
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「あんたはぜったい同性結婚をすると思ってたぜ、グレン。あたしも結婚するなら同性がいいなあ」。

 こんな台詞が飛び出すマンガがあると知って絶対に読みたい! と思ったのはかなり前のこと。当時すでに絶版、古書店で探したけどみつからず、諦めました。さらに月日が過ぎタイトルさえ忘れ、秋里和国の作品、だけじゃ探しようがない? が、「少女まんが魂」の彼女のインタビューで言及されていて、やっぱり読みたいぜ、となりました。今は便利ですね、ポチするだけで手元に届きます。

「ルネッサンス」の舞台は、オゾン層の破壊で白人だけが滅亡した数百年後の地球。そこは「完全両性愛社会」なのです。異性にしか興味のない人間はヘンタイ扱い。「精神の改革運動」の結果、「男は男らしく女は女らしくなんて大昔の考え」になったというのです。大昔=現在、ですか。

「少女まんが魂」での秋里和国のインタビューのタイトルは「フツーの人もヘンタイだし、ヘンタイの人もフツーだということが、みんなにとってフツーになればいい」です。本当、これが理想なのでは。

 画像はコミックスの表紙ですが、私がゲットした文庫版の表紙は月のアップです。帯には「月は静かに見つめていた 白人だけが滅びた地球を…」とあります。ネタバレは避けますが、月がとても大きな位置を占めます。正直、想像していた話とはまったく違いました。解説の松尾由美さんが書かれているように、「性別を問わず就きたい職につき、男同士、女同士のように気軽につきあい、その中で魅力を感じた相手と、性別に関係なく恋愛、結婚ができる」とはまさにユートピア? 

 が、一方では異性しか好きになれない人は「ヘンタイ」扱い、人種の摩擦はないが、白人は滅びている? そして月と地球との関係について考えたり。想像をはるかに超えた恐ろしく深遠な世界に魅了されました。「ルネッサンス」というタイトルの、なんと皮肉なことか。久々に読み応えのある(ありすぎ)マンガを読めて大満足です。

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クィア・ジャパン (Vol.2)

クィア・ジャパン (Vol.2) 変態するサラリーマン 表現のセクシュアリティ Book クィア・ジャパン (Vol.2) 変態するサラリーマン 表現のセクシュアリティ

著者:伏見 憲明
販売元:勁草書房
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 この本に溝口彰子が「やおいはホモ・フォビック」と書いていると聞いて購入しました。彼女の疑問は、

(1)なぜ、男性キャラクターたちは、同性同士の恋愛において自分はノンケだと主張するのか?
(2)なぜ、彼らはセックスその他において<受け>と<攻め>に分かれ、固定化した男女のジェンダー役割を演じるのか?
(3)なぜ、いつもアナル・セックスをするのか?
(4)なぜ、こんなにたくさんレイプがおこるのか?

 以上です。これらは「タナトスの子供たち」「やおい小説論」でおおよそ理解できましたので、詳細は省きますが、他にも注目記事がいっぱいで、買ってよかった、と素直に思いました。

 まず、特集の「変態するサラリーマン」。企業で働くゲイ、レズビアンも多いはずですが、カミングアウトすべきか否か。カミングアウトした人、しない人。さまざまなケースが語られて非常に面白かったです。座談会「私はコレで会社辞めました」もそうだし、アンケートも秀逸。ゲイ、レズビアンの勤め人にとっては結婚へのプレッシャーが大きいのですね。「結婚しないと一人前でない」という無言のプレッシャー。上司から「男の生きがいは妻子を幸せにすること」なんて言われた方も。

「吉田秋生の世界」も良かったですね。伏見憲明との対談ですが、「同性愛を描くことで(当事者でない自分が)ゲイを傷つけているのではないか」との発言には感銘を受けました。私もゲイ関連映画や書籍の紹介をしてますが、常に「自分はこれでいいのか? 当事者の傷みをきちんと思いやっているか?」と悩みつつブログを運営しています、しているつもりです。腐女子の中には自分が萌えることに夢中で、当事者の傷みに無関心なのでは? と気になるケースもあるので…。

 他にも三島由紀夫「愛の処刑」をめぐって、の鼎談。「愛の処刑」も全文、掲載されています、久々に読みましたが、やっぱり刺激的。事件の当夜も蒸し暑かったのですね。狭い部屋に血の臭いが充満しただろうなーとゾクゾクしてしまいました。

 こうした雑誌(単行本形式ですが)を出し続けるのは難しいでしょうね。このVol.2は再版もされてそれなりに売れたのでしょうか。初版は2000年なので内容はちょっと古めですが充実の極みです。A5、250Pで読み応えがあります。久々に買ってよかった1冊です。

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男流文学論

男流文学論 (ちくま文庫) Book 男流文学論 (ちくま文庫)

著者:上野 千鶴子,富岡 多恵子,小倉 千加子
販売元:筑摩書房
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 前々から気になってたんですが、小難しい本なのかなーと敬遠してきて損しました。古い表現ですが痛快丸かじりです! 文庫版あとがきに、上野千鶴子が「賛否両論でたけど人に勧めるとき『エンタテイニングなのだけは請け合いますから』」とありますが、まさに。もう~、もっと早く読みたかったです。この中でいちばん興味あるのは三島なんで彼について書こうかと思ったのですが。寛子さんが懇切丁寧に紹介されてます、私は下記だけにしますね。

小倉…すべての男は女嫌いだけれども、それが肉体化されるまでに顕現化してる人たちをホモと呼ぶんです。男と寝たいことに気づいている男と、男と寝たい自分に気づいてない鈍感な男がいて、鈍感な男をノーマルと呼んでいるだけですよ。(三島由紀夫 P380)

 いきなり過激ですね~。 

 他の文豪について気になった点をちょろちょろ書いてみますね。三島以外はほとんど読んでないにも関わらず、富岡(この企画の言いだしっぺ。感謝!)、上野、小倉のかしまし娘の話芸に乗せられて読了してしまいました。

 吉行淳之介は映画化された「夕暮れまで」は見てるんだけど、今思うとしょーもない話でしたね。江藤淳は60年代に既に「吉行は懐メロ調」と指摘したそうです。

上野…谷崎にはホモという観念はなかった。男を崇拝するという性向はありませんでした。

小倉…やっぱり吉行と同じホモフォビアですよ。女は他者というか、客体だから、どんなことをしてもいいけど、男がそんなことをしたら、彼の中の倫理構造ーヒューズが飛ぶんですよ。(笑)

(谷崎潤一郎「痴人の愛」「卍」 P194)

 ヒューズが飛ぶ! いやー、笑かしてもらいました。

上野…少なくとも小島信夫は、三輪俊介の口を借りて、男のご都合主義なエゴイズムを表現することに成功していますね。<俺は時子を閉じ込めたい。閉じこめておいて、俺や家族のことしか考えさせないようにさせたい。>それまでの家長が、さまざまなタテマエで言い繕ってきたはずのことを、むき出しの恥ずかしげもない表現で、男の自己中心的な欲望を表現してる。そういうところにまで男は追い詰められてる

富岡…それは書いてます。だけど、読み手の男性がそれを感じたかどうかというと、心もとないね。

(小島信夫「抱擁家族」P248)

 読み手の男性、追い詰められてるなんて感じてないでしょうね、感じたくない、感じることから逃げてるというか。解説で斎藤美奈子さんが指摘しているように「男流文学論」への反応は「とにかくオレは不愉快だ」てな気分がミエミエ。褒めたのは高橋源一郎だけだったとか。あの人、柔軟そうだものね。

 つーわけで男性からの反発はものすごかったようですね。Amazonのレビューでも女ごときにズバリ指摘され悔しそうなものばかり。確かに「論」じゃないかもしれませんが、井戸端会議だとしても男流の問題点を鋭く突いているではないですか。私は「論より証拠」だと感じました、こんなに問題山積なんだよ、と証拠を突きつけられ、男性陣たじたじ。

 タイトルで揚げ足をとられるくらいなら「文学論」はやめにして、改題はいかが? 「かしまし娘が男流文学を斬る!」「男流文学なんてこんなもんだよ井戸端会議」「トンデモ男流文学の世界」「お笑い男流文学」「男流文学に石を投げる」「男はみんな女が嫌い~男流文学の真実~」エトセトラ、エトセトラ。どれもぴんときませんが、読んでよかったです、すっきりしたい方、お勧めです。

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とりかへばや、男と女

036  河合隼雄さんが逝去されました。何度も読み返した「とりかへばや、男と女」の著者として限りなく尊敬しておりました。TVでもちょくちょくお目にかかり、「思春期とは吊橋を渡るようなもの。眼下に谷底があると気づくと渡れなくなる。谷底に気づかず渡ってしまう者もいるが」とか、「14歳なんて、まだ男か女かも分からないのに」といった発言に魅了されました。ご冥福をお祈りします

 高校生のとき運命的に出会った「とりかへばや物語」の分析、再評価はとても嬉しかったです。それまで「退廃的」と貶められてきた同作をユング研究所で紹介したところ、相当な関心をもって受け止められた由。

【性が入れ替わったまま成長する男女を描いた王朝文学『とりかへばや』。一見、荒唐無稽に思われる物語には深く重層的な心のタペストリーが隠されていた。「男らしさと女らしさ」「自我とエロス」「美と倫理」―。分裂していた要素は物語の中で結び付き、性差や社会的枠組みをしなやかに超えていく。】

 こんな内容の本です、よろしかったら是非ご一読ください。文庫版では富岡多恵子さんの解説も興味深いです。

【歌舞伎、宝塚、ロックミュージシャン。観客にステキだと思われる「男」はきわめて女的であり、ステキだと思われる「女」はきわめて男的である。(中略)「とりかへばや物語」は幻想のステキな「男」と「女」が接していることを物語という特権によって見せてくれる。】との指摘には深く頷いてしまいます。

【人間は「男らしさ」「女らしさ」という二分法(社会的性別)がないと社会的秩序が保てないと思ってきた。近代から現代にかけては「二分法の病い」が進んできた。「心と体、自と他、善と悪などを明確に分離することにより多くの成果(特に自然科学の)を得てきた」が、二分法により分断された人間は全体性の回復を求めて、個人的、社会的に反乱を起こす。】

 この本によって二分法の限界を考えるようになりました。白黒はっきり、は無理なのではないか。でも、映画や小説の感想などに接して痛感するのは、本来、明確に判断できないはずの善悪をはっきりさせたがる人の多さです。白でもなく黒でもなく、限りなくグレイゾーンとしか言えない(うかつに二分できない)ケースが圧倒的だと思うのですが。

(画像は岩手大学HPからお借りしました。)

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男を脱ぐ!

男を脱ぐ!―ジェンダーが救う新・サラリーマン幸福論 Book 男を脱ぐ!―ジェンダーが救う新・サラリーマン幸福論

著者:蔦森 樹
販売元:全日出版
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「男でもなく女でもなく」の著者、蔦森樹さんによる画期的な本です。リストラされないよう気を遣って生きるサラリーマンたち。しかしセクハラという地雷を踏んでしまうことがある。もう一つの地雷は「男だから泣き言を言わない、女だからやさしくあるべきという男らしさ女らしさに代表されるジェンダー(社会的な性)」。男たちのジェンダー認識はあまりに古く、ジェンダーに関する危機管理がないと蔦森さん。

 女性社員に性差別的な発言をし、非難のまなざしを向けられても、自分がそれほどいけないことをしたとは認識できない旧態依然の男性。無知ゆえにリストラされてはたまらない、男もジェンダーについて知り、幸せになりましょうという趣旨の本なんですね。出版されたのが03年、世間ではリストラの嵐が吹き荒れておりました。

第1章 性の常識をリセットする(「男」は得か損か「ジェンダー」とは何か ほか)
第2章 男と女のフィクション(セックスというフィクション 性染色体というフィクション、最新の解析が明かした真実 ほか)
第3章 ジェンダーフリーの約束(兄弟姉妹への約束 ジェンダーフリー5つの約束)
第4章 職場でも家庭でも効く男のジェンダー危機管理術(職場での女性とのコミュニケーション 家庭での妻とのコミュニケーション)
第5章 新サラリーマン幸福論のすすめ(今、男たちは本当に幸せか? 男を脱ぐ)

 どの章も非常に面白かったです。特に第2章で「ゲノム解析」により人間の遺伝子情報は99.9%までが同一だと明かされた! という話は興味深かったですね。性別も人種も単なるラベルに過ぎない、人類はすべて兄弟姉妹。受精の時点では性別もないのだし、確かにそうなのかも。チンパンジーだって99.1%までヒトと同じ遺伝子情報を備えている、となれば、ケータイのCMじゃないけど、犬がお父さんでもいいわけです?

 しかめっ面して男らしさにしがみつき、なんとなく生きづらさを感じている男性がこの本を読み素直に受け止められたら、ほんとに楽に生きられそうです。「社内や家庭内の身の回り半径5メートルを平和にする」だけでいいのですから。ジェンダーの危機管理術とは「男たちのなかに秘められていた慈愛の再発見プロセス」だそうです。

 愛なんて、日本の男性の一部は、考えたこともないモノなのかもしれません。恋愛経験の有無に関わらず結婚はするのが当たり前だからした、という男性も多いでしょう。でも愛はやっぱり必要だと思いますね。

「男を脱ぐとは愛をすべての言動と活動の意図とすること。それには謙虚さが必要だ。」と蔦森さんは言います。私も女を脱いで(?)ただの人間として謙虚に生きたいものです。まさに愛は地球を救う、といった趣旨でした。色んなものに囚われている男性が読んだら目からウロコでしょう。私も非常にさわやかな読後感でした。

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フェミニズムの帝国

Book フェミニズムの帝国

著者:村田 基
販売元:早川書房
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「たくましい女性と結婚して楽しい家庭をきずき、〈男の花道〉で命をまっとうしてますらお神社に英雄として祭られるのが男の幸せ…。」

「フェミニズムの帝国」は、そんな近未来の日本が舞台である。

 そこでは、徹底的な女性優位社会が語られる。今の日本社会の逆と思ってくれればいいだろう。女のくせに、たかが女、どうせ女は、等々の言葉に悔しい思いをしてきた世代の私としては、溜飲が下がった、かというとそうではない。非常にあと味が悪かった。とっくに処分してしまった本だし再読する気もないのだが、どこかにひっかかっていた。

 映画でいうと「女ならやってみな」みたいな感じ? 北欧の映画で、全国各地で自主上映が行われた。私も田舎にいた頃、見る機会があった。女が今の日本の男みたいに威張りくさって、男のストリップなんか見に行ったりする。メイル・ストリップを観に行くなんて今じゃ珍しくもないが、当時は斬新だった。それに、この映画にはユーモアがあって楽しかった。

http://plaza.harmonix.ne.jp/~jaja/cinema/m1.html

 だけど、こっちの小説は暗いんだよねー。主人公いさぎが加わるマン・リブ運動は、結局、いまの日本みたいな男性優位社会を目指しているように思ったし。途中から出てくるマッド・サイエンティストも凄惨なイメージで好きになれない。

 そもそも、何故あの世界では男の立場が弱くなったのか? たしかエイズが男性だけの病気で特効薬はないから、だったような。命短し恋せよ丈夫、である。「ますらお神社」って、なんか靖国神社みたい。

 読んだときも今も思うのは、男女どちらかが優位、じゃなくて、性別に関係なく、誰もが互いを尊重し尊重される社会がいいなってこと。そういうことを気づかせてくれるって意味では読んでもいいかもしれないけど。あと味悪いですよ、ホントに。

 読むまでもないけど、もっと詳しく知りたい、と言う方には、下記の考察が参考になると思います。だけど、どうしてこう読みにくい書き方するかね。5,6行ごとにスペースをとってくれれば、もっととっつきやすいのに。読む人のことを考えて書いているのかしらん。

http://isidora.sakura.ne.jp/mizu/sara3.html

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とりかへばや物語

とりかえばや物語 Book とりかえばや物語

販売元:筑摩書房
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 これは私の運命の1冊かもしれない。高校1年、文学史の資料で「とりかへばや(ばや=~したい)物語」の解説を読んだときの衝撃!

「男女が入れ替わって育てられる物語。平安末期の頽廃的な風俗を反映した作品」だってえ!?

 よ、読みたいっ!! 私の高1時分といえば、ジュネの「泥棒日記」と出会い、三島の「禁色」を徹夜で読んだ頃。このテの話に飢えていたが[JUNE]さえ創刊されてなかったのだ。そこへこの朗報。私は図書室に走った。そして発見したのだ現代語訳を! 今は文庫になった上記のがそれです。

 ある高貴な方の夫人2人が、それぞれに美しい子を産む。男と女で瓜二つであった。そして何故か男の子は内気で女の子の遊びが大好き。女の子は逆に活発、長じても傾向は変わらない。両親は困り果て、ついに一大決心を。

 姉は男として御所に出仕、弟は女として御所で侍女に。姉は結婚もしてしまう(相手はもちろん女性)。弟は主人である東宮を孕ませたり、とすったもんだの末、それぞれの性にたちもどっていく。

 弟が姉の同僚(宰相)に言い寄られたり、色好みの宰相が、男装している姉の色香にくらっときて同性愛(実は異性愛だが)をしかける場面などに、私とクラスメイトの才媛Kさんは、しのび笑いを漏らしながら熱中した。遠く平安時代にこんな話があったとは。あの衝撃は一生忘れないだろう。

「とりかへばや」は長らく異端というか価値の低いものと貶められてきたが、「源氏には負けるが、なかなかの名作」と、近年、再評価が進んでいるのは嬉しいことだ。

 下記の「とりかへばや、男と女」には、古今東西の、こうした話が取り上げられていて興味深い。「とりかへばや」のあらすじや分析も載ってます。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101252211/nifty0b5-nif1-22/ref%3Dnosim/503-2004234-7919944

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男でもなく女でもなく

男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて Book 男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて

著者:蔦森 樹
販売元:朝日新聞社
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 身長180センチ、体重75キロ。カストロひげにグラサン。著者の蔦森樹さんは20代の後半までマッチョなナナハンライダーだった。 

 その彼が突然、「こんな自分は嫌いだ」と異性装を始める。「女の服装が自分をいちばんよく表現できるから」だが、これはいわゆる「女装」だ。

 女装者というと、女装クラブでこっそり女装したり、普段は下着だけ女性ものを着けたり、と表面上は「普通の男」で通す、というイメージしかないが、蔦森さんは常に女性の格好をしていたいのだ。男性が日常的にそうしたとき、何が起こるか。その経過を綴ったのが本書である。

 己の欲求に忠実に生きる。それが、どれほど困難であることか。周囲からは受け入れられず、女装者=倒錯という図式に当てはめようとする側との軋轢に苦しむ。夫の突然の変貌に困惑し妻は去っていく。蔦森さんは精神の均衡さえ危うくなるのだ。

 が、いちばん堪えるのは経済的活動ができなくなることだ。男か女か、外見上、それをはっきりとさせないと収入の道は絶たれてしまうのだ。企業への就職は無理だし、自由業かSOHOか。はたまた不本意ながら水商売の道に入るか。選択は極めて限られるのだ。

 セクシュアリティ《性的嗜好、好きになる相手の性別、ジェンダー(社会的な性役割)、性自認(自分の体の性の認識)など様々な要素》は多様であっていいはずだし、「自分と違うから」「変わっているから」という理由で、個人が排除されるような社会はいただけない。

 蔦森さんは色々な職を転々とし(Amazonの紹介にもあるように)、新しい理解者を得、仕事も軌道に乗せていく。ある書評に「昔の無頼小説のような」とあったが、まさに。

 私が買った当時はお高い単行本しかなかったが、お求めやすい文庫になっていて幸いだ。この本のおかげでセクシュアリティについて真剣に考えることができた。他者の立場を尊重しようという気持ちも更に強くなった。たくさんの方に読んでいただきたい1冊だ。

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