ブロークバック・マウンテン(350)

Nve00071  BBM(341)に、あいこさんからコメントをいただきました。「『なめるんじゃねえぞ』、ではなく『生ぬるいぜ』」と、訂正されているとのことです。BBM資料集にも載せている米塚氏のリンクですが、確かに、

22 11

「なめるんじゃねえぞと思った」は、「生ぬるいぜと思った」と改めてくださいませ」(2月22日追記)

とあります。

【*訳者所見(3月30日記。IEではクリックすると開きます)

 この一節はやや難解な箇所ですが、以下のように解釈(パラフレーズ)できます。イニスは全力投球する男だった。牧場のフェンスを修繕するという日常の生産的な営みにおいても、なけなしの金を浪費するという非日常の非生産的な営みにおいても---つまり、いついかなる場合でも。そこで、この場合も「手でする」などという「中途半端」な誘いには我慢ならず、「どうせなら突っ込んでやる」と思い…ということです。(ならば、「火にでも触れたように」手を引っ込める反応の激しさは何なのかということになりますが、そこがイニスの抑圧され分裂した部分を 表しているのかも知れません。「分泌液」の件と同じく。)

 他方、「経験の少ないゲイ」であるジャックにとっては、本来、この「手による性器愛撫」こそが自然な行為だったはず (経験豊富なゲイの相当数にとってもそうでしょう)。作者プルーの同性愛理解の正確さ、そしてジャックとイニスのセクシュアリティの微妙な描き分けがよく分かる一節だと思います。】

 

 あいこさん、ご指摘ありがとうございました。訂正のお知らせは直接、米塚氏からいただいたもので、きちんと目を通しておくべきだったのですが、正直、あまりに訂正が多いことへの戸惑いもあり、精読しなかったのは確かです。また、当時(2006年前半)は、原作のほうに目を向ける余裕がなかったというのが実情です。かなり遅くなりましたが、追記に気づくことができて感謝しております。

 

 さて、あの箇所を「なめるんじゃねえぞ」→「生ぬるい」と訂正されたとのことですが。うーん、やはりしっくりきません。私は「そんなもの、欲しくない」という直訳でよかったと思うんですよね。男とやりたいなんてこれっぽっちも思わないがイニスは突っ走ってしまった。それは何故なのか、は読者が考えるべきことでは? せっかく分かりやすく意訳してくださった米塚氏には申し訳ないのですが、「なめるんじゃねえぞ」が「生ぬるい」に訂正されても、文章の流れに、異質なものが挟まれてしまった、という違和感は拭えないのです。

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ブロークバック・マウンテン(349)

525528_tl_1  アン・リー監督の新作がカンヌ映画祭に出品された件はお知らせしましたが、ヒースの遺作(ですよね)、テリー・ギリアム監督の「The Imaginarium of Doctor Parnassus」が、来週、22日にカンヌに登場、だそうです。記事中のYouTubeでヒースの元気な声を聞いて脱力しちゃいました。「『キャンディ』が公開され『ダーク・ナイト』が控えているけど、次は?」との質問に「ギリアムとの作品。テレンス・マリックとも予定あり」とうれしそうに答えるヒースに、いたたまれない思いでした。こんなに元気だったのに、どうして?

 ここしばらく、英語サイトで情報を見ていなかったのですが、紹介したブログでは、BBMのオペラ化の件も話題になっておりました

【Brokeback Mountainオペラが戻っているように見えますが、現在、それはマドリードの聴衆になるでしょう2013年に結果を聞く。
チャールズ・ワーリネンの最近のインタビューが単にそのアニーPをする作曲家は非常に密接にステージに置くだけではなく、オリジナルの短編とフィルムが影響を及ぼす音楽と両方にもジャックとエニスの話を置くのにかかわりました。】

↓原文

It looks like the Brokeback Mountain opera is back,
but now it will be Madrid audiences who will hear the results in 2013.
Composer Charles Wuorinen's recent interview makes plain that
Annie P has been very closely involved in putting
Jack and Ennis' story not only on to the stage but also to music and both
the original short story and the film will influence.

 

 相変わらず、翻訳サイトは使えないです!

 当初、ニューヨークで初演、と報じられたオペラBBMですが、Charles Wuorinenがスペインに仕事の場を移したのかなんだかよくわかりませんが、初演はマドリ-ドになるようです。

【アニーProulx自身は既に終わっている台本を書きました'。
私は、それがフィルムとのかなりの関係を持っていないと感じています。
しかしながら、それには、同じキャラクタがありますが、話と異なって、女性はそれのわずかに大きい役割を演じます、フィルムのように。
しかし、私はアン・リーに連絡していません、そして、アニーProulxに連絡しました。
'私は、ただ彼女が最近最後の有効打突を加えにNuevaのヨークに来たとき、彼女と共に働き終えました'。】

'Annie Proulx herself wrote the libretto which is already finished.
I feel it does not bear much relation to the film.
It has the same characters, but unlike the story, however,
women play a slightly bigger part in it, as in the film.
But I have not contacted Ang Lee and I have contacted Annie Proulx.
I just finished working with her when she came recently to Nueva York
to add the last touches.'

 

 翻訳サイトの訳では意味不明ですが、どうもプルー自身がオペラBBMの台本を書く、というか書いた模様。映画同様、女性の役割が大きくなる? となると、映画との関連が指摘されるのでしょうが、映画とオペラはまったく別物。ある小説が映画化され、その脚本を、その小説家が書くケースはありますが、小説→オペラの台本、ですかー。プルーもやる気なんですかね。当然、リー監督は部外者、なんですが。それでも映画での表現がオペラBBMに深く影響しそうな感じですね。

 キャストについては、

【当然ながら、エニスはジャックと同じくらい容易に彼の声を見つけないでしょう:
'ジャックは叙情的なテノール歌手になるでしょう'。 エニスは数個の話された部品をもっているバスバリトンです。
彼はいくつかの通路で歌うだけです。'2つの個性の間には、かなり著しい違いがあります'。
'Q:' オペラを見に行く人々が、男性の間のラブシーンを見るのに慣れていません…CW: 'さて、それらはそれに使用されなければならないでしょう'。】

Not surprisingly, Ennis will not find his voice as easily as Jack:
'Jack will be a lyric tenor. Ennis is a bass-baritone with several spoken parts.
He only sings in some passages.
There is a quite marked difference between the two personalities.'
'Q: People who go to the opera are not used to seeing love scenes between men …
CW: Well, they will have to get used to it.'

 ジャックより、イニスの役を探すのが難しい、といっているようです。イニス役は歌は少々で、朴訥な語りがプラスされるのでしょうか。ジャックがテノールで、イニスがバスバリトンというのは分かりやすい。でも、これも映画がもたらしたイメージが大きいような。

 コメントには、映画を愛しすぎているのでオペラは見られそうにない、とか、そもそもオペラ化ってどうよ? みたいな意見も散見されますね。正直、私も映画だけでいいよー、てな気もするのですがね。どっちにしても、マドリッドでの初演を見るのは無理そうですー。

 スペインに敬意を表して、スペイン版BBM予告編をどうぞ!

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ブロークバック・マウンテン(348)

Brokebackmountain19  ジェイクの新作がさっぱり公開されず(アメリカでは12月4日!)イライラの日々ですが、おめでたいニュースも。マギー姉さんとピーター・サースガードがついにゴールイン、ジェイクとリースも式に出席したそうです。マギー姉さん、おめでとう! 【「ダークナイト」のマギー】として紹介されたこと、複雑ですが。本当にヒースとマギーが共演してくれてうれしかったですよ。そして、ピーターは「ジャーヘッドで「でジェイクと、「Rendition」ではジェイクに加えリースと共演した仲でもありますね。

 さて、本日は、またまたイニスの離婚問題。原作と映画では描き方がかなり違うなー、と気になったものですから。イニスのこの沈んだ表情からも、離婚が本意ではないことが窺えます。10代半ばで両親が他界、兄と姉が親代わりに面倒をみてくれたとはいえ、寂しくなかったはずはない。兄が結婚し居場所がなくなった、と映画ではジャックに語っています。イニスも早く兄の家を出る必要があったのです。つまり、独立=結婚です。アルマJr.も父と同じ道をたどっていますね。母アルマが厳しく接する→独立=結婚。イニスが同居を承諾すれば結婚は遅くなったかもしれませんが、これでよかった気もします。

 原作ではどうでしょう。兄が結婚して居場所がなくなったり、アルマJr.が母から邪険にされた、などのエピソードは出てきません。離婚にしてからが、「何やってるんだろう、こんな男につきあって」と、アルマは「離婚した」とあるだけです。イニスの反応も淡々としたものです。「金の余裕はなかったが、満足していた」! 「アルマを心底から恨むような気持ちはなく、ただ店で釣り銭をごまかされたときのようなモヤモヤが残るだけだった」。基本的に、さほどショックではなかった様子が伝わってきます。

 映画では、離婚裁判のシーンで、イニスは相当に参ってるように見えます。離婚成立でジャックが訪ねてきたときも娘たちと過ごす時間を優先。「先月は仕事で会えなかったし」とわざわざ説明しています。原作ではモンロー家のキッチン事件以降、「こちらから娘に会おうとは絶えてしなかった」のですが、映画では、それどころでないのはご存知のとおり。Mizumizuさんはこちらの記事で、

【映画では長女との心の交流を通じて、イニスがジャックとの愛の生活を犠牲にすることで築いてきた何かがあることを見るものに印象づけ、いくばくかの救いと、そしてなにより、「同性愛にまったく感情移入できない人々」からの共感も得ることに成功したと思う。】

 と書いてらっしゃいますが、女性をクローズアップし、娘との交流を細やかに描く一方で【実はイニスのジャックに対する性的な欲望は大幅に削られている】のですね。【マイナーなアート作品に留めずに、商業ベースにのせて幅広い観客に見てもらいたいという制作者側の意図がある】のだとしたら、納得です。その結果、やさしい父親としてのイニスが強調された面もあるかと思います。確かに原作の娘に冷たいイニスだったら私はあまり好きになれません。ただ、冒頭ではすでに夢にジャックが出てきたことを喜んでいるし、シャツのエピソードも当然ありますから、イニスはイニス、なのですけれど。

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ブロークバック・マウンテン(347)

2861642  またもや前記事(346)の補足です? どうも私、やさしい父親としてのイニスを見ていると居心地が悪くて。その理由を考えると、なんでも許してくれるパパに甘やかされた~い、という一部BBMファンの願望が透けて見えて気持ち悪いから、ということになりそうです。父親は、子供の壁でいいんじゃないでしょうか。子供の頃は反発しても、年を経て、父もただの弱い人間だった、と分かるのでは。

 さて、本日はイニスの離婚事情というか、養育費について。先日、「日本では養育費を払わない男性が多い。他の国のように法的機関が徴収するようにすべき」、といった話を聞いたのですが、そういえばイニスは離婚裁判に、いわば敗けたので養育費を払わないと罪になるのでは? ちょっと検索したら、

マサチューセッツ州法では、養育費を3ヶ月滞納した場合滞納者は逮捕され、90日以下の懲役刑が課されます。】

 懲役刑ですよ、怖いですねえ。でも当然ですよね。イニスが養育費を払い続けたのは娘たちへの愛、とどなたかが書かれてましたが、そんなセンチメンタルなもんじゃないでしょう。養育費の滞納=犯罪、ですから。もちろんイニスは誠実に払い続けたでしょうが、もし滞納してたら何らかの制裁措置があったのでは? こんな事例も!

 ところで前にイニスの離婚について書いたときは、「アメリカの離婚はオール裁判制」と思いこんでいたのですが、実は、

【どちらかに「浮気」や「暴力」などの原因となる要素がなくては離婚できない「有責主義」ではなく、日本でいう「破綻主義」に 似た概念の「無責離婚法」が1970年に制定され、夫婦の合意がなくても一方の意思で離婚でき、今までのように相手方の非を証明する為に裁判で争う必要が無くなった

 とのことです。

1970年といえば、イニスとアルマが離婚する前です。原作ではただ「離婚した」と書いてあるだけですから、「無責離婚」だったのかもしれませんが、映画でははっきり、裁判で離婚しましたね。イニスは別れたくなかった。が、アルマは裁判できっちり白黒つけて、自分が親権をもぎ取り、イニスに養育費を払わせる、という判決を聞きたかったのでは。そのくらい、アルマの怒りと絶望を思えば当然、といったことを描きたかったんでは、と思います。しょんぼりしたイニス、一方のアルマは厳しい表情ながら、何かふっきれたようでしたね。

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ブロークバック・マウンテン(346)

22  まず(345)の補足を。読み返してみると、プルーの語る「(アメリカの)暴力」とリー監督の描いたBBMでの暴力描写をごっちゃにしてしまった感があります。違和感を感じた方もおられるかと思いますが、私の中では、原作も映画もきっちり暴力を語っている、という認識です。BBMの表向きの美的表現の裏には、厳しい視点も多いです。だからこそプルーもリー監督の作った映画BBMを気に入っているのでしょう。

 今日は「父親」について、少々。以前、あちこちでBBMへのコメントを拝読して、父としてのイニスがたいへん好評なことに「?」でした。私自身、若いころは父と上手くいきませんでした。私が一人暮らしを始め距離をおくようになってから、少しずつ反感を感じなくなっていきましたが。月日は流れ、父もさびしい一人の人間だと気づき、一緒に旅行でもーと思った矢先に他界したのが残念です。

 子供時代、私は母寄りでした。たまに父親と仲のよい友人の話を聞くと、やっぱり「?」。別に両親が夫婦喧嘩するでもなし、今思うと単に私がわがまま&未熟だっただけなのですが、父のことがずっと嫌でした。が、イニスの娘たちは違いますね。特にアルマJr.はパパが大好き。映画限定、ではありますが。原作ではイニスは「娘たちを愛してる」と言いますが、モンロー宅の諍いのあとは会っていない様子でした。

 映画では、イニスが娘たちから慕われていることが随所に描かれます。離婚後、訪ねてきたジャックを追い返したのも娘たちと過ごすため。モンロー宅でもイニスは娘たちと和気藹々でした。アルマJr.はロデオの話なんかして、アルマに嫌がられます。アルマJr.はイニスに似ているので尚更、アルマは辛く当たったのではないでしょうか。前にも書きましたが、Jr.は早くモンローの、母の家から出たかったのだと思います。

 そのアルマJr.ですが、イニスが自宅に迎えに来たときは本当にうれしそう。が、キャシーが同乗していると気づくと顔が曇ります。帰り道、イニスとの同居を申し出ますが拒絶されますね、ここも原作にはないです。そしてラスト付近ではアルマJr.がイニスを訪ね結婚の報告をします。彼女も親離れのときがきたのです。このときイニスは「彼はおまえを愛しているのか」と。映画では唯一、イニスがLOVEを口にする瞬間。

 リー監督は「父親三部作」を撮っているくらいですから作品上、父親が果たす役割は大きいと思います。BBMの場合でも、イニスとジャックの父性より重要なものが描かれています。それが真打登場、最後に出てくるジャックの父なのです。(イニスは娘たちを、いわば甘やかしており、それが優しい父親を求めるファンには好評なのかもしれませんが、私には疑問が残ります。)

 キネ旬BBM特集号の「監督論(増田統)」には【無骨な父親は息子の秘密を察し、それでも彼を受け入れる(家族の墓に埋葬する)意外な姿を静かに覗かせる。】とあります。確かにイニスの帰り際の父の様子は、「父親三部作」の父親たちと重なるものがあります。が、なぜかジャック父は評判が悪いです。最初の登場シーンでは、一見すると頑固オヤジの代表、なのですが、最後は違う。父も変わっていく、もしくは包容力(息子ジャックへの不器用な愛)を垣間見せた、という点を見逃している(気がつかないふり)?

 ジャックは若いころは父への反発をはっきり示しましたが、老いてゆく父を見て、自分の牧場を持つ、のではなく、父の牧場を手伝う、へと気持ちが変わっっていったのでしょう。父も手伝いはいらん、とか言いながら内心はうれしかったはず。あの無骨な父が素直に喜びを表したりはできるはずがありませんから。

 ある意味、ジャックは成長した、少なくとも変化したのです。できればジャック父の牧場で、並んで黙々と働く父とジャックを見たかったのですが…。

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ブロークバック・マウンテン(345)

Brokebackmountain1   ご存知のようにBBMはとても映像の美しい映画ですが、ひどく残酷なシーンもあります。言うまでもなく、9歳のイニスが見せられたアールのリンチ死体と、イニスが想像したジャックが襲撃されるシーンです。緑に囲まれた山での牧歌的な生活があまりに印象的なせいか忘れがち(?)ですが、相当に残酷な描き方であると思います。特にアールのリンチ死体はリアルで、あそこまではっきり見せなくても~、とびびったものです。

 BBMのパンフレットにアニー・プルーのインタビューが載っていますが、

【アメリカはもともと暴力的な銃の国。車の運転中にキレてしまってハイウェイ殺人。自分とは違う人間に暴力を振るったり殺したりは日常茶飯事です。私の作品に出てくる登場人物の身に降りかかる結末のほとんどは公の記録、新聞や事故報告書、地方史、などに収められている実話からとったものです。彼らに降りかかる悲惨な死や不運を書き連ねていくことのポイントは、深く広がっているアメリカの暴力を描くことにあるのです。(39P)】

 だそうで、アールやジャックも、プルーのいう「深く広がっている」アメリカの暴力によって葬られたのでしょうか。プルーのこの発言からだけでも、BBMが単なるラブストーリーでないことは明白です。イニスの父は、アールの死体を見せたとき「笑っていた。おやじが手を下したんだ」と、9歳の子供の前で殺人を誇示するかのような態度。恐ろしいことですね。

 ところで私は「天国の門」という映画のDVDをゲットしたのですが、それはワイオミングが舞台で、ユナイト映画を倒産に追い込んだ問題作、と聞いたためです。が、実は【l892年にワイオミング州で起きた、いわゆる「ジョンソン郡事件」を描いたもの。東欧系移民たちが貧しさゆえに牛泥棒を重ねることに激怒した牧畜業者が移民を虐殺】する話だと知り、ゲンナリしてしまいました。しかも3時間を越える大作~。まだ見てません。(涙)

 で、「ジョンソン郡事件」を検索してたら、こんな記事がヒットしました。「シェーン」の背景に「ジョンソン郡戦争」がある? そういえばBBMのレビューで「シェーン」とBBMを絡めたものがありました。と、そちらでも、「ジョンソン郡戦争」と「シェーン」との関わりを指摘しているではないですか。「天国の門」への言及もあり、【ひょっとしてアン・リー監督は『シェーン』を参照しているのかもしれないな】ですって。

 うーん、ひょっとして、ではなくリー監督ははっきり「シェーン」を意識してイニスとジャックの衣装を決めたのでは? 当然、「天国の門」もリー監督は見ていると勝手に私は想像してしまいます。

 となると、

シェーン(ジョージ・スティーヴンス 1953年)

天国の門(マイケル・チミノ 1980年)

ブロークバック・マウンテン(アン・リー 2005年)

 ワイオミングを舞台にした新旧3作は、「暴力」をキーワードに、見事につながりそうです。

 そういえばジョージ・スティーヴンスは「ジャイアンツ」の監督でもありますね、「ジャイアンツ」はBBMフリークの必見映画です、テキサス&ホモソーシャルの世界がよくわかります、未見の方は是非どうぞ!

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ブロークバック・マウンテン(344)

Bbm4  アン・リー監督の新作『トーキング・ウッドストック』(原題)がカンヌ映画祭のコンペ部門に出品されるそうです。今から日本公開が楽しみです。アメリカでは8月公開、日本での日程は未定~。

 さて、大変遅くなりましたが(343)の続きというか補足です。内野さんはイニスがあまりにも「アクションを起こさない」と書かれており、私もそう感じました。どうしてなんだろう、なぜイニスはそういう印象があるのだろう、と思っていた矢先。すなっくままちゃりさんからコメントを頂きました、「イニスはジャックに対してアクションは起こしている」と。

【イニスはちゃんとジャックに会っています。はがきで「今年は勘弁してくれ、来年にしてくれ」とか言うこともできるでしょう、けれどもジャックに会っている、それはジャックに見捨てられるのが怖いからです。】

 そうなんですよねー、そして、問題は、すなっくままちゃりさんもご指摘のように、イニスが「ジャックに見捨てられたくない」という己の本心に気づいていない点です。

 アクションを起こすといえば、2人の関係が深まるきっかけは、やっぱりイニスなんです。たとえばテントでの2日目の夜。原作にはないこのシーンで、イニスはキャンプに居残っています。更に、おずおずとではありますが、自分からジャックが待つテントに入っていきます。イニスが本当に「あれは1度限りのこと」と思っていたなら、もしくは肉欲に負けなかったら、羊の元に戻っていたはず(それじゃBBMになりませんが)。

 4年後の再会。ここも映画では原作と違い、イニスの積極性が目立ちます。原作では抱き合い、キスするとき、特にイニスが積極的とは思えません。が、映画ではどうでしょう? イニスがどのように自分を迎えるのか全く予想がつかず、ジャックは不安げに車から降りてきます。そこへ、あの乱暴なまでの歓待ぶり。ジャックが舞い上がるのも無理はないです。

 ところが、モーテルでの「どうにもならない」発言から、イニスの気持ちは後退していくように思われます。言い換えれば積極性が失われます。もちろんジャックと会い続けますし、会わずには生きていられなかったでしょう。が、会いにくるのはジャックばかり。ラリーンが「不公平」と口にするのも当然です。もちろん、イニスはあまり休みがとれない。だからジャックがワイオミングまで片道14時間かけて駆けつけるしかない、というのは分かりますが。

 人は定住型と放浪型とに、ざっと分類できそうですが、イニスは相当な定住型ですよね。旅行なんかしたことない、ですか。原作では、アルマが不満げでしたね、「ジャックとは出かけるくせに家族とはレジャーに行こうともしない」と。映画では具体的に描かれていました、土曜の夜の教会の集まりに誘っても、イニスはくだらない、とビールをあおるばかり。でも娘たちが小さいころは独立記念日のお祝いに出かけていました。花火の夜のシーンです。これも対なのですね、イニスの変化があからさまに見てとれる。アルマはさらに離婚への意思を固めたことでしょう。

 ジャックはどちらかといえば放浪型でした。流しのライダーで、テキサスまで行き、ラリーンと出会い結婚しますが、いいかげん落ち着きたかったはず。イニスとのことは一旦、あきらめたような気もしますね。が、居辛い家庭環境からはがきを書くにいたった、と映画では描かれています(そう想像できます。こういった細やかなエピソードをちりばめる手腕はにくいほどに巧みですね)。そしてイニスとの再会で、ジャックはイニスとの定住を望みました。

 話が逸れましたが、イニスが定住型で、極言すれば「ただ待つだけの存在」であること。離婚してもジャックとの暮らしを選ばないこと(もちろん大きな理由がありますが)。なども、「アクションを起こさない」印象を強めたのではないでしょうか。

 イニスとジャックの愛の形も、実は、その、「アクションを起こさない印象」に影響しているように思います。下記はkママさんから頂いたコメントですが、イニスが「愛を乞うひと」であったことが、よくわかります。表面的な言動だけで、ジャックが受動的だと捉える人も多いと思いますが。

【映画をはじめて見た時に、最初のテントでの愛のシーンの印象から、ジャックの愛が受身のようにインプットされてしまい、ジャックがいつもいつも「会いたい。一緒に暮らそう。」とイニスに言っているので、ジャックがより愛を求めているように見えます。しかし、実はより愛を求めていた(愛されたかった)のはイニスですね。2日目の夜のイニスのされるがままの子供のような素直な姿も納得できます。

 愛は一方的なものではありませんが、ジャックの愛は能動的なもので、イニスの愛は受動的。これは二人のその後の人生に深く影響を及ぼしていると思います。】

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ブロークバック・マウンテン(343)

Brokebackmountain26  無料動画Gyaoで「チョコレート」が視聴できますね! 久々に黒髪ヒースと再会です、レンタルDVDはなぜか吹き替えで見てしまったので、ああヒースの声だー、と感激。R指定解除版を選んだら、冒頭の立ち××はカットされてました~。

 さて、本日はジャックの打算的な面について補足です。イニスの離婚により、いよいよ同居、と駆けつけてみれば、イニスは娘たち優先、その様子から、今後何があっても同居の可能性はなし、とジャックは悟ったものと思われます。その後、ランドールと知り合い3年ほども関係を続けたようです。

【本当に打算的な人間ならイニスにno wayと言われようと、舅から大金貰っていつかイニスと暮らす為に(叶わないと思いつつも)ラリーンと離婚してたような気がします。】といったご意見をいただきました、それもあり、ですか。そういえば、なぜジャックはラリーンと別れなかったのでしょうね。あの冷ややかな家庭。息子ボビーも、幼いころはともかく、感謝祭の食卓では、父ジャックといい関係には見えませんでした。逆にイニスはモンローの家でも娘たちに慕われていましたね。

 イニスの件はおいといて、自分も離婚して、ひとりで父の牧場を立て直す、という選択はジャックにはなかったのでしょうか。誰かと一緒でないといけなかったのでしょうか。ジャックは父に「相棒はいなくなったから、俺が一人で手伝う」と言ってもよかったのでは?

 ランドールに「一緒に牧場を建て直そう」と持ちかけたのは危険すぎたと思います。やるわけないじゃないですか、ランドールには立ち場もあれば妻もいる。面倒なことを言い出したジャックを…となっても不思議ではない。それがわからないジャックだったのでしょうか? それとも最早、どうなったっていいや、という心境? ラリーンに「火葬にして遺灰はブロークバックに撒いてくれ」なんて。40前の人間が普通、そんなことを口にする? ジャックは長生きしたくなかったのかもしれませんね。

 いつからジャックは「2人で牧場を」ではなく、「父の牧場を立て直す」に方針を変えたのでしょう。イニスには1度だけ、キャンプで持ちかけて断られました。それ以降は誘ってないっぽい。やはり老いていく父を見ていて、手切れ金がもらえず自分の牧場が持てなくても、父を手伝うことはできると。自分も年を重ね、少し、父への思いが変わっていたのかもしれません。相棒がイニスでなくても。手切れ金なんかなくても。離婚して好きな牧場の仕事をしよう、と最後のキャンプの後で決めたのでしょうか。

 CutのBBM特集で、内田亮さんがイニスについて、「あまりにも主張がない、愛にコミットすることも、愛を否定することもなく、20年近くただひたすら、ぐずるだけ。」「ここまで幸せに(逆に堕落にさえ)立ち向かってアクションを起こさない主人公は珍しい。」と書いておられますが、確かに。そんなイニスなので、結果的にますます、ジャックの行動的な面が目立つのではないでしょうか、本当に対照的な二人です。(ただ、牧場好きな面はイニスのほうがふんだんに描かれていましたね。)

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ブロークバック・マウンテン(342)

Clipartbrokebackmountainhathawaygyl  今日はちょっとジャックについて書きます。あの最期ですから悲運の人であるのは確かですが、けっこう打算的な面がありましたよね。最初にBBMを見たとき、イニスとの4年後の再会キャンプで「手切れ金をもらって牧場をやろう」に、私はまずショックを受けたのです。イニスが承諾したらすぐにでも、といった調子で意欲的で、この人、そんな簡単に離婚できちゃうの? と面食らったものです。もちろんラリーンへの情もあり、息子もかわいかったでしょうが、それ以上にイニスと牧場! への思いが強かったのです。

 そういえば映画のジャックは、山で「早く自分の牧場を持ちたい」と口にしていました。原作では「二人ともちょっとした地所を手にするため貯金をしていると言い張っていた」とあるだけです。それがイニスと再会し、一緒に牧場を、と考えるようになったのでしょうか。最後は実家の牧場をイニス以外の男と、と思ったようですが。

 ジャックが打算的というのは、ラリーンとの出会いですでに描かれていましたね、このダンスシーンも。彼女には何の興味もないけど、ひょっとして金づるになるかも、と、表現は悪いですが、そういう計算があったはずです。バーテンからラリーンが事業家の娘と聞いて、がぜん関心を高めたでしょう。運よくロデオで優勝し、ラリーンに好印象を与えていましたから望みはあると。(その前のロデオシーンではさんざんでした、すぐ落とされ、ロデオクラウンには振られ、不審の目で見られて。)

 ラリーンと結婚して裕福になったジャックは、服装も一変します。着たきりすずめのイニスと違い、登場ごとに違う衣装。車もぴかぴかで、しかし心は満たされませんでした。イニスは娘たちから慕われていましたが、ジャックの家庭は冷たかった。イニスは独身に戻り、いつでも自分と再出発できそうなのに、娘優先で追い返される。結果、傷心のメキシコ行き。このへんのジャックの挫折を映画はきめ細かいエピソードで描いています。

 原作では最後のキャンプで「思い通りには全然運ばなかった。ちきしょう、俺が望むものは一つとして、まともに手に入りはしないんだ」と。イニスがツイスト家を弔問したとき、ジャックの父も同様のことを言いますが、映画では何か、息子の不運を(顔には出さないけど)嘆いているようでもあります。ジャックの思惑がうまくいったためしはないことに父が言及したというのが、なんとも複雑です。

 原作文庫の訳者あとがきに「一瞬だけ生命とチャンスを与えられ、チャンスを生かせず、無機物に還っていく人間たち」とありますが、チャンスを生かそうと、あれこれもがいたのはジャックのほうだと思います。そしてジャックの望みは、一つも手に入らなかったのですが、死後、イニスを変えることができた、それだけは確かです。

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ブロークバック・マウンテン(341)

Brokebackmountain56 これからBBMにはまる人も多いでしょう、と書いたばかりですが、早速、AmazonのDVDレビューにそんな書き込みが。「監督、キャスト、すべてが奇跡的な出会い」です。10日付のもので、「ダークナイト」でヒースを好きになってBBMをご覧になったそうです。「ダークナイト」経由BBM着、の方がいてもちっとも不思議ではありませんが、なんとも複雑な気分です。

 さて、先日の文庫の訳、「なめるんじゃねえぞ」ですが。やはり意訳にしても、あまりに唐突だし、イニスの全力投球さが出てない気がします。イニスの思い、「そんなのちっともほしくなかった(he wanted none of it)」が映画ではジャックに対してイニスが一言、「What do you want?」(でしたよね? 脚本では「What're you doin’?」ですが)。それと呼応というか、原作の記述を生かしているようでもあります。考えすぎですかね。

そしてもう一箇所、かねてより気になっていたのがモーテルでの会話。イニスはジャックに「ほかの男とやったことはあるのか」とずばり尋ねます、大胆ですね。映画のイニスだと、そんなこと怖くて質問できねーよ、って感じに描かれてますが。原作では「おれはおまえを見失っちゃいけなかったんだ」と核心に触れた発言までしてるのに、一歩も前に進めなかったのは映画と同様。

 ジャックの答えは「あるわけねえだろ」。「牡牛以外のものにも乗っていたので、自分で処理することなどなかった」のだそうです(P40,4行目)。原文では「Who had been riding more than bulls」で、特にひねった訳ではない。私は、乗っていたではなく、乗られていた、の間違いではないかと悩んで(?)いましたが、あるときふと、乗っていながら乗られている状態はアリだ、と気づいてにやにや&スッキリ? なに書いてるんでしょうね、朝っぱらから。失礼しましたー。

 しかし、イニスはジャックとめったに会えなくても、女性が相手でも代替行為はできるわけです、アルマにははっきりとそうしていましたね。その意味をアルマは、4年目の再会で思い知らされたわけで、何重のショックと屈辱だったでしょうか。一方のジャックは男がいなければ満たされなかった。真に満たされる相手はイニスだけなのですが、メキシコ行きやランドールとの件は、本当にやむにやまれぬ行為だったのでしょう。もちろん最終的にはイニスと牧場を、イニスがダメならほかの男と? ジャック父が語ったあの発言がどこまでジャックの本心だったのか、誰にもわからないことですが。

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