ブロークバック・マウンテン(250)

Nve00090_1  ジャックの到着を待つうちに寝てしまったイニス。ジャックの夢を見ているのかもしれません。原作ではアルマに「レストランを予約する?」と聞かれたイニスは2人で飲みに行くと答えながら「冷えた豆の缶詰が、汚れたスプーンを差したまま丸太の上に並び、ゆらゆらしている情景」を思い出します。ラスト付近の夢に出てくる性的なイメージです。期待してたんですね!

 映画では返事を投函したイニスが口笛を吹きつつ郵便局を出てきたり、当日のそわそわと落ち着かない様子などでジャックを待ちきれない気持ちが表現されていますね。

 イニスの夢を軽視していたためにずいぶん見えなかったことがありました。夢はイニスにとって非常に重要な意味を持つのですね。原作のBBMは冒頭、現在のイニスについて語っています。ジャックの夢を見て「胸は喜びにあふれている」と。そして最後に具体的な夢の内容が示されます。ジャックを待ちながらイニスが思い浮かべた豆缶が出てきます。

 イニスの夢とは枕も濡らすがシーツを濡らすくらいに性的なものでした。夢の中でもイニスはジャックを「肉体で」愛しているわけです。夢は、いまはなきジャックとの逢瀬の場所、こちらの方が現実と言っていいくらいです。イニスにとってはジャックと会える夢の方が本当の世界なのではないでしょうか。

【あの部分はイニスが誰とも付き合っていなくて、孤独に生きているという事をいっているんだと思ってました。今やイニスには夢の中のジャックしかいないという寂寥感があふれ、同時にジャックを独占し、ジャックに独占されているという幸福な満足感。】

 こんなメールをいただきました。

 そう、イニスは孤独でしょう。はたから見たら何もかも失った悲しい男。でも原作の冒頭にあるようにジャックが夢にでてきて幸せなときもあります。イニスは十分に満ち足りていると思います。イニスはジャックだけのものだし、ジャックはイニスだけのものになったから。

 映画には夢は出てきません。ラストシーンは4バージョンあって夢をつかったものもあると聞きますが、リー監督は現行のラストを選びました。シャツの置き場所は原作にはないクローゼット。これが夢の代替になるものだと思います。

 さて、クローゼットの意味です。私にはクローゼットがイニスが「隠れゲイを引き受けた」ことを示すとはどうしても思えないのです。では何を表すのか。辞書もひいてみました。

 come out of the closet(納戸から出てくる)→(秘密、特にゲイであることを公表する)

 しかしclosetには「閉じこもる」という意味もあるのですね。イニスにはこちらの方がふさわしい気がします。イニスはよく「殻に閉じこもる」と表現されますが、まさにイニスはクローゼットに閉じこもったのでは(イニスの心が、ということです)。現実はあまりに過酷、ジャックはもういない。愛の形見のシャツは残されたものの、ジャックと共にブロークバックに戻る望みは潰えた。

 私の考えはこうです、クローゼットはイニスがたどり着いたブロークバックなんだと。

 イニスとジャックを象徴する2枚のシャツ、それは永遠のdozy embrace。本物の山の代わりに絵葉書。クローゼットの扉はあれほど2人が戻りたかったブロークバックそのものでした。そして扉を閉じれば闇。

 闇はイニスにとっては好ましいもの、「現実」である夢の世界への入り口だからです。闇の中で目覚めたイニスは今夜もジャックと愛し合うのです。

ブロークバック・マウンテン Book ブロークバック・マウンテン

著者:E・アニー・プルー
販売元:集英社
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ブロークバック・マウンテン(249)

Clipartbrokebackmountainvista 先日、アメリカ版2枚組DVDの特典、ジャックが出した絵葉書のレプリカについて書きましたが。表の写真はこれでした。タイトルは入ってませんが。やっぱり気分出ませんよね、あの安っぽい茶色の山の写真でないと。

「キネ旬」2月下旬号が発売中です。2006年の総決算号なんですね。私はちらっと立ち見しただけですが、ゲットされた方から感想が届いています。

【BBMは以前発表になったように外国映画の第4位で、読者選出でも第4位でした。映画関係者の選評のページを見るとBBMのとらえかた(の違い?一般の鑑賞者もそうだったんですよね、好むか好まざるか)が分かるような気がします。1位に上げる方と全く選にも入れない方もいる。
 1位に挙げた方の中でも、北川れい子さんのアン・リー監督についての「この監督、ときどき迷走するが、今回は人を愛することの孤独と不条理を空間ごとに描き出し、狂おしいほど切ない」と、佐藤友紀さんの「助演のアン・ハサウェイにまで『夫の秘密をいつ知ったかは一生の秘密にしようとリー監督と誓ったのよ』と真剣に語らせる深さと重さに改めて感じ入った」、品田雄吉さんの「愛しさと寂しさを主題にしたフーガのような作品だ。アメリカのドライな風景と男女の心の柔らかさが対照的だ」が印象的でした。

 ヒースの「CANDY」はワイズ・ポリシーの配給なんですね。これも見たいな~。 】

 以上です、ありがとうございました。「CANDY」は今秋公開ですか、楽しみですね。

 とても対のシーンの多いBBMですが、この記事では対の多い映画として「キャスト・アウェイ」が紹介されてます。BBMはこの何倍も対がありそうですね。

【「キャスト・アウェイ」が面白いのは、最初のシーンと最後のシーンが対になっていることである。】

 同じゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ」も最初と最後に1枚の羽根が出てきたのを覚えています。BBMもそうなのでは…。といっても、例の窓からの風景ではなく、弔問から帰るイニスの車のことです。朝焼けの山系をバックに右から左にイニスを乗せたトレーラーが現れる鮮烈なオープニング。片や夕闇迫る中、ジャック(のシャツ)を連れて帰るイニスの車が左から右へ。完璧な対ですよね。

 私は思ったものでした、ここで「The Wings」を流してラストにしたって良かったのに。「I swear...」なんて難解な言葉をラストにもってくるから皆が悩むんじゃん。シャツを見つけてイニスがジャックと愛しあってたことに気づいたんだから、それでOKでは? 

 つい最近、やっぱりラスト付近の車は、ある終焉を示しているのだと思い当たりました。イニスのトラウマの呪縛はここまで、という意味ではなかろうかと。オープニング(正確には9歳)からイニスはずーっと「タイヤ・アイアンを手にした父に殺される恐怖」に怯えつづけていたんです。それがシャツを見つけて愛を自覚し、ジャックと共に帰宅する。

 フォビア(&セクシュアリティ)関連の場面に流れるどんよりした音楽もここでおしまいです。BBMは場面転換で次のシーに音楽が被っていることが多いですが、ここでは暗転があり、イニスがポストに数字を貼るシーンに変わるのと同時に終わっています。前と関連はないよ、全く別の場面が始まるよ、といってるのだと思います。

 イニスがどのように呪縛から解放されていったか、については後日、記事にするつもりでおります。

 ところで、またもや原作文庫に新たな発見が。ラスト付近、夢を見たあとのイニスです。

「夢から醒めた瞬間は、悲嘆にむせんでいることもあれば、かつてと同じ喜びと安らぎを感じていることもあった。枕を濡らす朝もあれば、シーツを濡らす朝もあった。」
 原文ではAnd he would wake sometimes in grief, sometimes with the old  sense of joy and release; the pillow sometimes wet, sometimes the sheets.

「シーツを濡らす」って×精したって意味でしょうか? release(解き放つ)という単語を使うあたりが…。

「それでときに彼は悲嘆にまみれて目を覚ました。しかしときには懐かしい歓喜と解放の感覚とともに。ときに枕を濡らし、ときにシーツを濡らして。」

 上記は資料集にもあります私家翻訳版のものです。こちらの方が分かりやすいです。文庫の方はかなり控え目な訳ですね、こうしてみると。

【イニス元気ね~、と妙なところで感心してしまいました。肉体労働者だから、体力・精力があるのかもしれません。
 それと、もう女の人とは付き合っていないということかもしれませんね。何だかんだいってもてるでしょうに、「キャシーで懲りた」のでしょうか?】

 といったメールも頂戴しています。そう、×精といえば若い人のもの~と思ってましたが、いや、いいんじゃないでしょうか。夢の中でも激しくジャックを愛しちゃったのね、さすが肉体の愛の人、イニス。そこまで愛されてきっとジャックも本望でしょう。こっちまで嬉しくなってしまいました~。

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ブロークバック・マウンテン(248)

Bbm15699vt_1_1  しつこいのですが、本日は弔問シーンを今一度ふり返りたいと思います。お付き合いのほど、よろしくお願いします。

 この画像は「息子さんのこと、とても胸が痛みます」とイニスが言ってるあたりでしょうか。神妙な顔つき、落ち着き払ったイニスに比べ、両親は? ママは苦々しい顔で夫のほうを見ています。「ほんとに白々しいわね、この男。あなた、どう思う?」とでも言いたげです。パパは文字通りイニスに向かって斜に構えています。ついでに、イニスの後ろの黒い帽子。ジャックが見つめているみたいですね。

 何度も書いたように、当初、私はこの場面について深く考えたことはありませんでした。感涙のシャツ出現にすっかりやられていたせいもあります。(37)(38)あたりでシャツについては少し書いてますが、イニスがどんな意識(「秘密の恋人であることを隠して」か、あるいは「親友として」)で弔問に来たか、なんて考えもしませんでした。まだまだラブストーリーとしてのBBMしか見えてませんでした、2回目を見たばかりの頃ですものね。

  年明け。シビアと言われる記事を書きまくりました。そしてイニスのトラウマについて考えるうちにようやく気づいたのです、自分が弔問時のトラウマに相当、支配されていたことに。そのへんの経緯は(239)(240)を読んでいただきたいのですが、あれだけ書くのにずいぶん消耗しました。下書きの段階から苦しみ、書いている間も何かに邪魔されているような感覚がありました。

 自分ではとっくに終わった「問題」(とすら捉えてなかった)なのに、終わってなかったのですね。確かに彼と過ごした時間と弔問時のことは思い出しても反応が違いました。たとえばデートをすっぽかされた件は今も憎たらしいですが、そんなこともあったね、と微笑みとともに思い出せます。しかし弔問の件となると別です、自然と涙があふれて止まらず、当時と寸分違わない痛みに胸は切り裂かれます。私の「弔問」はまだトラウマのままだったのです。

  ところで、ジャックを愛しているというイニスの本心は、弔問でどう変わったのでしょう?

 私はジャックの父がテキサスの男のことを口にしたとき、やはりイニスは嫉妬したと思うのです。ここでいきなりイニスの本心が出ました。ジャックが「一緒に牧場をやる」男は俺だけのはずだったのに、というショックです。イニスの心に激震が走ったのです。それはコンクリート詰め(?)にされ重石までされたイニスの本心に大地震を起こしたと言えば分かりやすいでしょうか。

 別の男の存在はまず重石を吹き飛ばしコンクリートに小さなヒビが入った。そしてシャツの発見。ここにいたってヒビは裂け目となり、そこからようやくジャックを愛している、という本心が顔を出しました。その瞬間から徐々にイニスは強大なトラウマから解放されていったのでしょうか。といった話は、また日を改めて。

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ブロークバック・マウンテン(247)

2240778  すなっく「ままちゃり」さん宅にDVDの感想第2弾がアップされました。拙ブログの紹介をして頂き、ありがとうございました。BBMのblog・レビュー集にも追加してあります。新しく頂いたママさんのコメントも傑作!

【ラショーンの携帯はきっとスワロフスキーの宝石で埋め尽くされてキンキラキンだと思います。あの叶姉妹が使っているようなやつですね。】

 いえてますねー、BBM1派手&おしゃべりなキャラであるラショーン。ぴらぴら花模様の衣裳が印象的でした。アルマJr.もラストでフリルのついた小花模様のブラウスを着てましたが、とても清楚でつつましい印象でした。ママさんの記事はどれも楽しく鋭い視点に唸りますが、特に気に入ってるのは「格付けしあう女たち」です。

 さてさて。ようやく2枚組のDVDが届きました、ざっと特典の感想など書きますね。ユニヴァーサルのHPではDVDの予告も見られます。上段真ん中のBBMの画像をクリックしてください。

 ケースは箱入り、パッケージも紙製です、写真は山ばかり。絵葉書8点セットはなかなかいいです。DVDケースにぎりぎり収まる大きさで見ごたえあり。なんといってもジャックが書いた葉書のレプリカが目玉ですが、あらー、表の山は映画とは違います。でも、両端を持って文面を眺めると、これを受け取った時のイニスのようにドキドキ。紙質はけっこうしっかり、つるつるした紙です。

 残り7枚をシーン順に紹介しますと、

1.山で背中を向けて寝そべるジャック、イニスは体育座り。

2.新婚時代のイニスとアルマ。ベッドで後ろからイニスにささやくアルマ。

3.毎度おなじみ花火シーン。イニスは足先がちょっと切れた程度で全身が映ってます。こんなに周囲に人がいたんだなーとびっくり。アルマは裸足だった?

4.楽しそうにダンスするラリーンとジャック。アップです。

5.車の中で泣くジャックの横顔アップ。悲しいよー!

6.dozy embrace、イニスの歌に耳を傾けるジャック…これもアップです。

7.シャツを握り締め匂いを嗅ぐイニス。

 それぞれ裏にはレビューやヒース、ジェイクの評などシーンと関連した記述アリ。しかし1枚たりとも実用には使えませんね、これは。いや、いいんですけど。

(244)でも早めに届いた方の感想を紹介しましたが、続報です。

【「A GROUNDBREAKING SUCCESS」の始まりはジャックとイニスの自己紹介のシーンで、ラストはdozy embraceのジャックの夢見る表情でフェイドアウトします。これだけで胸がキュンとします。】

 同感です。17分弱のもので関係者の談話、はじめて見る撮影シーンがメインです。食料を運ぶイニスの周囲にスタッフがいっぱい。当たり前ですね。下山し「もうすぐお別れ」のショックでアギーレの嫌味も耳に入らない2人、の撮影シーンもやっぱり周囲に人がいっぱい。当然だってば。(笑)

 他の新しい特典映像は、

*Music From the Mountain" featurette - 11 min.

 サントラの録音シーン、グスタボ・サンタオラヤの談話(BBMの音楽を担当することになった経緯など)。ルーファス・ウェインライトも登場。「ザ・メイカー・メイクス」をバックにBBMの映像が流れ、胸がつまりました。(236)に頂いたroymaniaさんのコメントを思い出してしまって。

【「THE MAKER MAKES」はジャックの歌、と決め込んでいましたが、エニスの歌でもあるのだなと気づきました。「chain」で繋がれて、けして「happy man」ではなかったのはエニスもまた、同じだったのですものね。】

* Impressions From the Film - Photo Montage - 3 min.

 BBMのスチル写真集です。見慣れたシーンばかりですが、サントラをバックに眺めるのもいいものですね。

 以上です。今回のリリースはワイド版だけですが、フルスクリーン版もあれば、ワイド版と見比べてみたい方には親切だったのにな、とちょっと残念です? 

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ブロークバック・マウンテン(246)

Sanstitre4io_1  本日から9日までユナイテッド・シネマ豊洲でBBMが上映されてますね。2本立てではないんですね、今日は午後から上映ですか。スケジュールを確認してお出かけくださいね。私も1度は見たいと思っておりますが…。

「耐えられるかぎり。終わりはないんだ」とうつむくイニス。とても辛そうです、深いため息を2回もついています。以前は私、同居を断らなくてはならず、ジャックに申し訳ないと思っているのだとばかり…。が、ぜんぜん違いました。

 久々にこの画像を見て、ジャックの手の意味が突然わかりました。「辛かったな、イニス。無理に言わせてごめん」といたわっているのではないでしょうか。同居の夢が潰えてジャックも泣きそうな顔になるけど、これ以上、イニスを追い詰めるのは酷だと悟ったのです。

 (188)でもこの画像を使い、【ジャックはイニスの苦悩の理由を知り愛おしさが増した(?)】というメールをご紹介しながら、まだ私は気づいてませんでした。イニスはあの告白をやっとの思いで口にしたという事に。

 イニスはおそらくアールの死体を見せられた件を誰にも言ったことはなかったでしょう。同居できない理由を話さないわけにはいかないが、それはイニスにとって人生でいちばん辛い記憶。ジャックが相手だったからなんとか話せたのかもしれません。

「死体を見たのか」とジャックも真剣な顔で聞きます。そしてそうと知ると、もう同居のことは口にしません。イニスの苦しさが分かったのでしょう。ジャックもイニス同様、深く傷ついていたから。同じ痛みを抱えていたから。原因はもちろん、父親による折檻です。あれ以来、父との間にしこりが残ってしまった。

「行き過ぎたしつけ」は出てきませんが、原作同様、映画のジャックも父が原因で心は傷ついたままと捉えていいと思います。山では「羊を撃つか」なんて大胆な発言をしたジャックです、心に何の屈託もなければ、もう少し粘り強く説得したんじゃないでしょうか。必ずリンチされるってどうして分かる? もっと前向きに考えようぜ、とかなんとか。

 でも、ジャックはわかってしまったんですね。リンチ死体を見せられ、しかも手を下したのは父親。それによってどれほどイニスが傷ついたかが。イニスも同じ痛みを抱えていたと知ってジャックはイニスがいっそう愛しくなったかもしれません。ジャックは父への不満をあれこれ口にしましたが、イニスはそれもなしです。だから父子関係は良好だったとも取れますが、実は違うのかもしれません。口に出せないほど深い傷だったのかも。その辺りはまた後日、記事にするつもりです。

 イニスのトラウマ、ジャックが父から受けた「しつけ」について考えるうちに、原作を洗いなおす必要を感じました。映画のBBMの方が好きだから、と流して読んできましたが、「はじめに原作ありき」なのです。私たちが深く愛する映画BBMは、優れた原作(とそれに感銘を受けた脚本の2人、リー監督)なしには存在しなかったことを忘れてはいけませんね。

 きちんと読んでいくと、映画がいかに原作のエッセンスを丁寧にすくいとり映像化しているかが良く分かります。イニスのフォビアの呪縛に関しても、つい最近、気づいた箇所があります。モーテルでイニスがこう言います。もちろんベッドでの会話です。(原作ではキャンプシーンはなく、会話はモーテルでのみ)死体を見たのか、とのジャックの問いに、

「見ておけって親父に言われたんだ。(中略)親父がまだ生きてて、今この瞬間にあのドアから顔を出したら、間違いなくタイヤ・アイアンを取りに行くだろう。男二人で住むだって? ありえない。」

 ゾーッとしました。「親父がまだ生きてて」と仮定しての言葉ですが、イニスの心の中にはタイヤ・アイアンを手にした父が生きているのです。そして、同性であるジャックと関係した自分を父が殺しに来る、という恐怖にイニスは常に怯えているのです。

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ブロークバック・マウンテン(245)

1pu  すなっく「ままちゃり」さんのBBM携帯話、楽しいですよね。コメントの他にも「最高!」「傑作!」と絶賛のメールを頂いてます。イニスの牛馬ブログ、キャシーに言ってた「今朝は牛を去勢した」も書きそうですよね。

 新たなジェイク共演者情報を頂きましたのでお知らせします。
【3月公開の『今宵、フィッツジェラルド劇場で』で、メリル・ストリープとジョン・C・ライリーが共演してます。
 ふたりとも歌手の役ですが、ジョンは相棒とふたりでカウボーイ姿で歌うのです。ダンガリーシャツに赤いバンダナ、カウボーイハットと、誰かさんを彷彿させてくれました。】

 面白そう~と思ったら。アルトマン監督の遺作ですね? 絶対に見ます!(涙)

【そしてヒース共演者情報ですが、シャニン・ソサモンが、3/24公開の『ホリデイ』に出ています。同じくヒース共演者の、ルーファス・シーウェルも出てました。】

「ロック・ユー」でヒースと共演の2人が出演。「ホリデイ」はジュード主演作、楽しみにしてましたが、さらに期待がふくらみます。貴重な情報をありがとうございました。

 本日は、BBMと車について書いてみたいと思います。自動車がシーンの転換によく登場しますよね、という話を雑談風に。

 最初に転換点に使われるのはイニスとアルマの新婚時代でしょうか。野外シアターで映画を見る2人。アルマがイニスの手をお腹に導いたところで場面は変わり、ジャックのピックアップが。下山の翌年、アギーレの事務所に向かうところです。「Snow」の音楽も少しかぶさり、イニスとジャックの両方のその後をつなげて示します。

 風の音を聞き、アルマに後ろから抱きつかれてジャックを思い出すイニス。アルマをひっくり返し、アルマのうめき声にロデオのゲートがきしむ音が重なります。この音を音楽、牛を車と捉えることもできるかなあと(こじつけですけど)。ここもイニス→ジャックとちゃんとつながっています。

 ラリーンと出会ったジャック。ラリーンの車の中で…の後、モンローの店の前にイニスのピックアップがやってきます。

 そして舅にパシリ扱いされ、ため息顔のジャック。いよいよ再会間近です。イニスのピックアップがコーナーを曲がり、角には「ELK」の看板。

 赤と白のピックアップでやってきたジャック。ラリーンの車なんでしょうか? 原作では以前のぼろピックアップで来た事になってました。

 2度目のキャンプ、このときからイニスは白と水色のピックアップ。ジャックは紺と白の車ですか、離婚時駆けつけもこれですね。

 ジャックの茶色と白のピックアップ(イニスの色)が出てくるのは最後の逢瀬のみ。が、回想シーン、イニスの車を見送るジャック。暗転の後も音楽は続き、場面はダイナーでのイニスに。右上の窓から停車中の車が見えます。ジャックの車を思わせる茶色と白です。

 ここで音楽は途切れ、歌が流れキャシーが入ってきます。彼女の服装がまた、こげ茶のジャケットにクリーム色のTシャツですか、なんだかジャックの車の色みたいです。キャシーがジャックの分身とすれば、この配色も納得です? 今までと違って男でも着られそうなスポーティな衣裳ですね。

 弔問にやってくるイニス。やはり他の場面と違っていきなり車が大写しになっています。急いで来ました(電話をして余り時間がたっていない)といった印象です。このことは、場面の転換に車が良く出てくることに気づき、そのへんをチェックしていて気づきました。

 最後に、アルマJr.来訪シーンについて少々。彼女が遠くから車でやってくるところは、冒頭のジャック登場と対ではないでしょうか? あそことは逆に、イニスが手前、車が奥ですが。この訪問ではある意味、アルマJr.もジャックの使者といえると思います。

 結婚式への出席を決め、「愛」という言葉を口にするなど、劇的に変わったイニス。目的を達したJr.は再び車で去っていきますが、ここがまた、下山時の2人の別れと対のように見えて仕方がありません。あの時はイニスの脇をジャックのピックアップが通り過ぎていきましたが。こちらではイニスは満ち足りた気持ちでJr.の車を見送ったことでしょう。下山時のシーンは何度見ても辛いのですが、ラストではこんな穏やかな「対」になったのだと思うと少し気持ちが軽くなります。

 話は変わりますが、アルマJr.の車を見て思い出したのがポンティアック・ファイアーバード・トランザムです。私にとってアメ車というと、このイメージなんですよね。Jr.の車とそう似ているわけではないのですが、BBM初見時、いかにもアメ車だなあ、と感じました。

 ところで、この時、車から流れていた歌をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。調べている方がいると聞き、私も気になっております。80年代頭のヒット曲? ABBAでもないだろうし…?

↓こんな本が出ていたのですね。「ゆるすことで自由になれる」には同感です。私は主に聖フランチェスコの祈りから許すことの大事さを学びましたが、過去にとらわれている方はこの本も参考になるかもしれません。ちなみに、Amazonも昨日からポイント制が導入されましたね。楽天との対抗上、でしょうか。

ゆるすということ―もう、過去にはとらわれない Book ゆるすということ―もう、過去にはとらわれない

著者:ジェラルド・G. ジャンポルスキー
販売元:サンマーク出版
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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ブロークバック・マウンテン(244)

Brokeback_mountain_z2_17_1 いち早くBBM米版2枚組(1月23日発売)をご覧になった方から情報を頂きました、ありがとうございます。

【オマケのハガキはジャックの4年目のものを含めて8枚でした。ほぼDVDジャケットの大きさ。ジャックのハガキの山は「El Capitan and Signal Peak」でハイウェイ42とカールズバッド(地名?)からの展望とあります。
「ジャックの住所がないのにイニスは何処に返事を出したんだろう?」という疑問をどこかで見ましたがスタンプがチルドレスとなっているから局留めですね。

 NEW BONUS FEATURESですが「A GROUNDBREAKING SUCCESS」が良かったです。どこでも見たことがないメイキングシーンがちょっと流れます。
 BBMがなぜ人々に支持されたか。なぜホモフォビアの攻撃を退けられたか。主にジェイマス・シェイマスが語っています。他にはランディのギャラ、パロディの多さ(youtubeのことも)、最後にこの映画によって私たちにもたらされたものが何であるかということ(たぶん…)
 スチルギャラリーは今まで見たことがないカットもあるかなという感じです。】

 本題に入ります。(243)につぎっちさんから下記のコメントが寄せられました。

【ジャックの父親が激怒してジャックを折檻し、放尿したことは、虐待なんでしょうか?
 確かに放尿はやりすぎだと思いますが、虐待という言葉には親から子への愛情が感じられなくて、ちょっと抵抗があります。ジャックの父親はジャックに対して愛情を感じていたと思うからです。今の、私たちの見解では虐待になるかも知れませんが、1946,7年当時のアメリカ中西部の片田舎の、無骨で教養もさほど無い父親が子供に対してとった行動は、その当時としてはある程度、常識の範囲だったような気がします。(ちょっと手荒ですけど)

 ジャックが気に病んでいるのは、肉体的に痛めつけられたことよりも、むしろ、自分は他の人間と違うようにされたんだ、と過酷な状況で、気づかされたことです。
 これは、勝手にジャックがそう思ってしまっただけなんですけど。

 父親がイニスに語った、「自分は特別な人間だから、先祖代々の墓には入れないとでも思っていたんだろうな」という部分も、(原文:He thought he was too goddamn special to be buried in the family plot.)特別な人間だから墓に入れない、と、勝手に思い込んでいるのはジャックの方で、けっして、父親から、「お前は特別だから家の墓には入れない」と言われたわけではないんですよ。

 確かに、この子供の頃の体験でしこりが残ってしまったかもしれないけれど、ジャックは、毎年実家に戻ってきて、父親の牧場の仕事を手伝ったり、門を直したり、草刈をしたり。いろいろやってるわけで、決して父親と仲が悪いわけでも、嫌ってるわけでもなかったと思います。

 父親に対して、イニスという男と一緒に牧場を立て直す、という夢まで語っているのですから、むしろ、何でも言える、良好な親子関係だったと想像します。

 かえって、「自分は人とは違う」、というジャックの開き直りが、周りに遠慮するには及ばない、と、イニスとの20年の愛を積極的に育んでいく、原動力になったのではないでしょうか。

 夢は、イニスと一緒に牧場をやることですから、いずれ、ラリーンと別れて、イニスと一緒にと思っていたのなら、なおさら子供はいらなかった。でも、ボビーには父親としての愛情をたっぷり与えていましたよね。】

 以上です。ジャックの父は確かにやりすぎだったとは思いますが、愛もあったのですよね。最近それがわかってきていたのに、原作の読み方が浅かったですね。もっときちんと考えをまとめてから書くべきでした。つぎっちさんのコメントを踏まえ、再度、記事にするつもりでおります。貴重なご意見をありがとうございました。

【エニスのアルマに対する態度ですが、現代の私たちの目から見れば「やさしくない! ひどい!」と思えるかもしれませんが、あの時代、あの場所ではあんなものだったのかもしれないなーと(もちろんジャックとの関係を隠していることはまた別ですが)。

 夫の妻に対する暴力が犯罪行為だと、ようやく認められ始めた時代ですよね? 特にマチズモが席巻している中西部では、奥さんにやさしいことも「男らしくない」と評価される可能性もあったのでは。
 そう考えると、結婚初期の娘をあやす姿や、アルマの要求を容れてリヴァートンに引っ越したことなど、エニスは彼なりに家族を大事にして、幸せな家庭を築こうと努力したのだろうと思います。】

 上記は(101)に寄せられたroymaniaさんのコメントです。ジャックの件もそうですが、21世紀の今と映画、原作に描かれた当時とを同じ感覚で比較してはいけないのですね。もともと舞台となった土地も文化も日本とは全く違いますし。

 と、すなっく「ままちゃり」さんから傑作コメントが。ありがとうございました。BBMの時代にネットや携帯があったら? 私も考えたことありますよ、携帯があったら、イニスとジャックももっと気持ちを通じ合わせることが出来た…かなあ?

【ジャックとの仲はアルマにバレバレなんだけれど、暗証番号だけはしっかり設定。さらにいつもマナーモードで、食事中でもチラチラ携帯メールを見たりするから、アルマは気分が悪いことこの上ない。そういうところは無神経なのに、ブログはやっていて、毎日几帳面に書き込みしている。記事の内容は馬と牛の出産がメイン。】

 イニスがブログ…? どうでしょう、you bet.の人ですから。戻ってきた葉書には珍しく沢山書いてあって、あれがイニスの40年の人生で書いた一番長い文章ではないかとコメントをいただいたことがあります。でももしイニスがブログをやるとしたら、馬と牛の出産がメイン、というのは頷けますね。

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ブロークバック・マウンテン(243)

Brokeback_mountain02 BBM原作文庫の解説に「2人とも幼年期に心に深い傷を負い」とあります。イニスのそれについてはある程度、語りましたが、今日はジャックの心の傷について考えてみたいと思います。というと映画では描かれなかった虐待シーンに尽きるでしょうか。

 原作ではジャックは「(子供は)どっちも欲しくなかった」と発言しています。最後の逢瀬の夜のキャンプでのことです。息子が欲しかったイニスには娘だけ、どっちも欲しくなかったジャックにはイニスが望んでいた男の子ができたとは皮肉ですね。

 この場面、映画ではジャックの台詞「時々おまえが恋しくてたまらなくなる」でぐっと来ますが、原作では続いて「苛々して、もし赤ん坊がいたらひっぱたいてると思うぜ。」

 赤ん坊をひっぱたく!? けっこうなショックでした。確かに苛々しているときに赤ちゃんが火がついたように泣いてるとイライラが募るのは確かですが。ひっぱたきたいと思ったことは私はありませんね。ジャック、どうしてこんなことを? 次にジャックは15になっても字も読めないというボビーを案じています。その件に関して強情なラリーンは認めようとしない、「いったいどう解決したらいいのか、金を持って全てを仕切っているのはラリーンだ」と。なんだかジャックが不憫になります。

 欲しくなかったといいながら生まれた子は可愛いはず、その子に問題がある(学習障害?)というのにラリーンはそれすら認めようとしない? ラリーンの頑固さの一面を示すエピソードかもしれませんが、それはおいといて。この告白の後にくるのが「俺はどっちも欲しくなかった」です。

 赤ん坊ならぬ3,4歳の頃。ジャックも父に虐待されたのでした。だから「(子供は)どっちも欲しくなかった」? 「負の連鎖」をジャックは恐れていたのでしょうか。3,4歳といえば子供の最初の記憶が形成される頃。私もいちばん古い記憶は3歳頃、幼稚園のそばまで母に見送ってもらった時のものですが。その、いちばん最初の記憶が父から受けた虐待だとしたら…。

 幼児の頃に虐待されたジャックが、長じて「赤ん坊をひっぱたく」と口にしてしまうのが悲しいですが、「そうしてしまうかもしれない」自分をジャックは認識していたのかも、とふと思ったのでした。

 子供に対して、親は自分がされたことしかできない、と聞いたことがあります。アメリカのドキュメンタリーで、子供を虐待した母親が「たいしたことじゃないわ。だって私も親にそうされたんだもの」となんでもさそうに言うのを見て唖然としたことがあります。子供ができたら意思とは裏腹に虐待してしまうかもしれない、それをジャックは恐れていたのか。

 原作ではジャックの実家でママがこういいますね。「ジャックは毎年帰って来て仕事を手伝ってくれた。」と。こうしてみると原作のジャックもけっこう繊細な面があったのかな、と考え直した次第です。

 ところでジャックの家って室内ばかりが映りますよね。This is my house,と口にしているわりにはその実態がさっぱり映らないのはどうした訳? 事務所の奥が自宅なのかもしれませんが。イニスの場合は最初の牧場内の住宅、クリーニング屋の2F、離婚後の町外れの家、ラストのトライラーハウスまで登場しているのに。

 ジャックが暮らしたニューサムの家が部屋ばかり映されるのは、ジャックの閉塞感の表れでもあるのでしょうか。本当のhouseはここではない、といっているような。イニスにとってはジャックが、ジャックにとってはイニスがhomeだったんですよね。

輝きの海」でもそんな台詞がありました。お互いがお互いの家だと。BBMと通じるもののあるいい映画です。未見の方、激オススメです。Amazonレビュー、最初の猫村しずさんがこう書かれてますよ。あー、猛烈に再見したくなりました!

【誤解、偏見、いわれのない悪意、行き違い、巡り合わせ、あるいは過ち──。
 いろんなものに翻弄されて、人は時としてひどく苦しむこともあるけれど、それでも、許し合って、支え合って、生きていくもの。 】

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ブロークバック・マウンテン(242)

Sanstitre8fu 左記の画像、字幕はフランス語です。Jack, je te promets...(ジャック、俺は約束する…)、「誓う」じゃないんですね。仏盤DVDではJack, je te jure... (字幕)だそうで、こちらは「誓う」の意味だそうです。ではこの画像は何に使われたものなのか? 詳細は不明です。フランス語に詳しい方に教えていただいたのですが、

【promettre (prometsの原形)と jurer (jureの原形)の違いですが、仏英の単語の対応は、promettre=promise、jurer=swear です。仏仏辞典も引いてみましたが、jurer は神( Dieu=一神教、特にキリスト教の神)や何か聖なるものに証言すること、と第1番目の意味で出てきます。一方の promettre は特に神は出てこないですね。】

 というわけで、今日のお題は「I swear…は結婚の誓いじゃない」です。そんなこと今更、の方も多いと思いますが、今一度、この件を確認しておきたいと思います。

(227)でペテロの否認の件を書きましたが、(134)にroymaniaさんがこんなコメントをくださいました。
【キリストの血(犠牲)によって、神と人間の新たな契約(新約)が結ばれたというのがキリスト教の基本なので、最後のエニスの独白「I swear...」が非常に自然に導き出されるのでは。】

「I swear...」、誓い(契約)は人間から神に向かってするものであることを押さえておくべきなんですね。
 I swear…を結婚と結びつけるのには私は「?」ですが。結婚式での「誓いますか」「誓います」が刷り込まれてるせいもあるんでしょうね。

 結婚式の誓いの言葉、日本では下記が主流のようです。さる方の式では、
【「汝、病める時も健やかなる時も、この者を愛し、支え、共に歩む事を約束しますか。」
 だいたいどこの教会ももこんな言葉です。ただ私の場合は『誓いますか』が『約束しますか』。これは洗礼を受けた夫婦に対しては神に『誓う』。洗礼を受けていない夫婦は神に対して誓う事に意味が無いので列席した人を前に『約束する』のだと言う事でした。】
 
 あの誓い、英語ではなんというのかと「バブル・ボーイ」の結婚式シーンを見てみたら。アフリカ系女性牧師が花婿にDo you take?(この者を妻としますか?)と訊いていました。
 Do youと聞かれたからにはYes I do. と応えるかと思ったら。Oh,yeah. あんたねえ!
 あ、とにかく結婚の誓いは「I swear...」じゃないってことですね。

「I swear...」については過去に(126)で考察を試みております。

【BBMを「純愛」と呼ぶのには抵抗がある私ですが、「殉愛」なら納得です。愛に殉じたジャックに遅れて、その愛を思い知ったイニスもジャックと同じように、ただ1つの愛に殉じる覚悟を決める。生涯ジャックを胸に留め、心の中のジャックと共に生きていくことを誓う。】

「殉愛」、我ながら気に入っております。その後、「I swear...」は「手遅れにならないうちに周囲の人間ときちんと向き合っていく」ことも誓ったのではないかと、どこかに書いた覚えが。アルマJr.の結婚式に出席を決めたイニスですが、以前の彼なら「仕事がある」で終わっていたはず。「彼はおまえを愛しているか」なんて言葉も口にしたし。

 ジャックの希望を叶えてやれなかった罪ほろぼしに、せめて今生きている人の願いはできるだけ叶えたい。そう思えるようになったとしたら、イニス、たいそうな進歩ですよね。結婚式に出ると告げられたときのアルマJr.の嬉しそうな顔。彼女が忘れたカーディガン(ジャックを思わせる色;青と濃いグレイ)をきちんとたたみ、軽くキスしてクローゼットに仕舞う。2枚重ねのシャツが目に入る。

「ジャック、俺、ちゃんと娘に気持ちを伝えられたぜ。これからも後悔しないように生きていくから」とイニスは言っているようでした。自然に「I swear...」が口に昇ったのではないでしょうか。ジャックへの「永遠の愛」も誓ったかもしれませんが、「結婚の誓い」ではないだろうというのが私の解釈です。

 と、ここまで考えてふと疑問が。そもそも同性婚ていつごろから?

【人類には、異性愛者ばかりでなく同性愛者もいることは有史以来知られていた。しかし同性愛者の結婚について、本格的に議論され始めたのは、ごく最近で1980年ごろからである。法制度的に整備され始めたのは、世界的に見ても1990年代から。】

 本格的に議論され始めたのは1980年ごろ! 本当にけっこう最近、せいぜい四半世紀前。ジャックの悲劇があった頃と大差ないじゃないですか。イニス、男同士で結婚なんて思いもよらなかったんじゃ? 

 もちろん本格的に議論されるに至るまでには当事者の根気強い運動があったのでしょう。本格的な論議がされる前から結婚を望む同性カップルは多かったはずです。彼らの訴えが実を結んで、21世紀の今、少しずつではあっても彼らの権利が認められつつあるのですが…。

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ブロークバック・マウンテン(241)

1 【イニスがジャックと別れた直後の「嗚咽、嘔吐」、人を好きになる時の「痛み」なんですよね。
 好きな人を失ったときも同じ「痛み」を感じる、好きになるのと、好きな人を失うのは、同様な「痛み」なんですね。
「北の平原の巨大な悲しみが、全身をつたう」、言いようのない寂しさを感じました。時間が全てを癒してくれるんでしょうか・・・・・・。】

 こんなメールをいただきました、ありがとうございます。本当に体は正直だと思います。下山しジャックと別れた後、イニスは吐き気がしただけでなく、全身が痛かったのではないでしょうか。でも、その変調がなんのためだか分からない。色んなものに邪魔され、結局、シャツ発見までジャックへの愛には気づけませんでした。

 イニスはシャツを見つけてその場でかなり泣いたと思われますが、「俺たちは愛し合っていた、俺はジャックを愛していたんだ」とやっと気づいて、ジャックの死後、はじめて素直に泣けたのかもしれません。帰りの車の中では、もう前が見えないくらいに泣いて泣いて泣き通したんじゃないかと想像します。

 ここでは(235)で「フォビアに関するシーンに流れる」と指摘した音楽が続いていますが、逆に言うと、あそこで最後です。これ以降はイニスは30年に渡って呪縛されてきたトラウマ(フォビアを含め)から徐々にではあっても解放されていくんだ、と解釈できるかな、と。ころころ考えが変わると呆れられるかもしれませんが、私は一つの考えには固執したくないですし、説得力のある解釈には虚心坦懐に接していくつもりです。

「北の平原の巨大な悲しみが、イニスの全身を伝っていった。」は自分の弔問について書いてみて、はじめて実感として胸に迫ってきました。やはり原作は侮れない、一字一句、吟味しながら再読しなくては。「北の…」の2行後に「風のうなりの底に、鋼鉄が骨を打ち砕く音が聞こえた。リムがカランカランとうつろな音を立て、やがて静止するのも。」とあります。映画でのイニスの妄想(リンチされるジャック)に相当する場面でしょう。

 BBMに入れ込めば入れ込むほど、私はなんと鈍感だったのかと恐ろしくなります。ジャックの死のことです。

 人ひとり、死んでるんですよね。いえ、殺されたんですよね。

 ジャックの死はイニスだけでなくラリーンやボビー、そしてライトニングフラットの両親を深く悲しませました。弔問の考察を通じて、冷たいだけに思われたジャックの父もそれなりに息子を愛していたことが分かったのは収穫でした。皆様の考察、コメント、とりわけJunjunさんのお父様の「父親の視点」には助けられ救われた思いがしました、改めて感謝いたします。

 パニック映画などでは大勢の人が一時に亡くなります。現実の社会でも大事故は日常茶飯事で、私たちはすっかり「死」に慣れっこになっているようです、ほとんど無感覚といってもいいくらいに。でも、その死はひとりひとり違うものですよね。1人の死の陰には、その人の家族、友人の無数の悲しみがある事を忘れずにいたいです。

 イニスの回想に出てくるアールもフォビア殺人の犠牲者でした。羊の死体を見たイニスが思い出したのはアールの死体だったのでしょう(これもシャケさんの考察のおかげです、ありがとうございます)。誰だって死ぬのは怖いし、9歳のイニスのやわらかい心に与えた傷の深さは計り知れません。イニスの意識にあるのはゲイ=リンチ死の恐怖。その恐怖の大きさゆえにジャックとの愛を認められないまま、悲劇はついに起こりました。

 何度も書きましたが、アールとリッチの方が心に忠実に生きた分だけイニスとジャックより充実した人生だったのではないでしょうか。たとえ束の間であっても、好奇と嫌悪の目に晒され、リンチの恐怖に怯えながらであっても、愛する人と暮らすことができたのですから。

 愛と死の重さをかみしめながら、ほそぼそと考察を続けていきたいと思っております。よろしければ、どうぞこれからもおつきあい下さい。

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