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ブロークバック・マウンテン(87)

Clipartbrokebackmountainledgerwilliams2_1  真紅さんの「風の歌を聴け~BBM#3」にインスパイアされ、今日はまどろみの抱擁@真紅さん(回想シーン)について思うところを書かせていただきます。

★というわけで、早くもネタばれゾーン突入です、ご注意ください。

 まず、リンク先から飛んで真紅さんの記事をじっくり読んでいただきたいのですが。とあるレビューで「ジャック=風(の音)」と書かれていたそうで、その方の慧眼にも驚きます。
 真紅さんも書かれているように風の音はアコギの爪弾きより先に聞こえますから、イニスより先にジャックが登場していた、とも取れますね。

 さて。本題に入りますが。この画像のシーンについてです。 

【仕事と幼子の世話に疲れたイニスが寝室に入ってくる。風の音が聴こえる。
ベッドに座り込んでまどろむイニスを、背後から抱くアルマ。え?まどろみの抱擁?? 】

 真紅さんの記事から引用させていただきましたが、このアルマの後ろからの抱擁が、回想シーンを想起させたとのこと。私は文字通り仰天。実はこのシーンはいつも適当に見ていて…。(汗)アルマとイニスのシーンは見ていて楽しくないこともあり。しかし、とっても重要なシーンだったのですね。

 娘たちを寝かしつけ、ぐったりして寝室にやってくるイニス。
 ジャックが風(の音)だとしたら。そしてイニスがジャックを後ろから抱きかかえたことを思い出していたとしたら。あの寝室にはジャックがいたも同然です。
 再婚したアルマの家で、ロデオの話題が出て、まるであの席にジャックがいたようなものだ、と思いましたが、このシーンにも。
 幸いというか、このときのアルマはまだジャックの存在を知りません。

 この抱擁シーンでは、アルマが引越しを提案します。「リヴァートンに安い物件があるの。私がきれいに飾るわ」と。またまたハッとしました。ジャックが現れてからのイニス宅の乱雑さを思い出したのです。
 凪さんの記事によれば、あれはアルマの心の荒廃を表す。確かにジャックとの2度目のキャンプ前。イニスが支度する場面でも家具の上に適当にモノが重ねてあった。極めつけは土曜の夜、アルマが教会行きを誘うシーン。室内がかなりめちゃくちゃです。
 はじめは主婦らしく工夫して家を快適に、と思っていたでしょうに。ジャックの出現でアルマはやる気を失くしたのでしょうか。

 肝心のイニスですが、あの抱擁の時、ジャックを思っていたのか? アルマが話す間、目を閉じ、あまりちゃんと話を聞いてないようでした。風の音に耳を傾けていたのかも。子供たちを気遣うことも言いますし、まだこのへんは良き夫、な感じ。(いま思い出しましたが予告を見たとき、このアルマの抱擁シーンで、イニスはジャックを思っていると感じました。ジャックが暗い顔でラリーンと踊るシーンとセットで、互いを思っているのだと)

 一昨日の10回目では、、イニスの細やかさというか、記憶力のよさと言うか、に気づいて感心しました。イニスはあのシーンでジャックを思っていたと確信しました。

 山でのことです。ジャックが寝転んでハーモニカを吹きますね。背後ではイニスが「テントがヘンだ。ハーモニカの音もヘンだ」。「馬から落ちて折れた」とジャックが答えると「馬から落ちないと言ったぞ」。
 いつ? ロデオの真似してジャックがひっくり返ったとき「馬がどんなに暴れても俺は落ちない」と言ってました!

 すあまさん宅では、イニスがジャックのために飲まないはずのスープを注文したのだろうと書かれています。「豆に飽きた」との言葉もジャックのもので、イニスは豆でいいはずでした。ジャックが豆は嫌だと言ったのを気にしていたのでしょう。唯一の友のことを、イニスなりに気遣っていたようです。

 再会後のキャンプでも「お前がハーモニカを忘れたから静寂が楽しめる」と。
 山では馬上でハーモニカを吹くジャックに「やめろ、また羊が逃げる」と言いながら優しく見守っていたイニス。きっと町に戻ってからも、ハーモニカの音を聞くたび、ジャックを思い出していたのでしょうね。
 
 そんなイニスが、回想シーンを覚えていても不思議ではありません。風の音とアルマの背後からの抱擁でジャックを思い出す。そしてアルマをひっくり返す。

 胸が熱くなりました。原作では、イニスがジャックを後ろから抱いたのは「ジャックが男だと意識したくなかったからだとしても」みたいな記述があり、悲しかったです。
 絶対そんなことない、あれはジャックが悲観的に考えてるだけ。と思いながらも確証はなく。でも少なくとも映画では、イニスもジャックを大事に思っていた、あの回想シーンを覚えていたんだ。そう解釈できるシーンがあったと分かって感無量です。

 なお、アルマ宅のキッチンでイニスが「釣りじゃないでしょ」といわれた件。ジャックとの仲がばれていたこと以上に同性愛がばれることが怖かったのでは、と以前他の方からご指摘いただいきましたが。
 この直後の、キャンプでイニスはジャックに尋ねます。「夫婦仲は普通か? 疑われてないか?」。そして「誰かに見られているような、噂されてるような」と。

 唐突に思えたこの質問ですが、10回目を見直して、やっと合点がいきました。やはりご指摘の通りだと思います。アルマの件以来、イニスは本性がばれるのでは、と怖くなったのでしょう。アルマが知ってるなら他の誰かも? だからキャンプでジャックに不安を訴えた。「釣りじゃないでしょ」から次のキャンプへ。イニスの心の動きがスムーズにつながっているのですね。
 
 このように、皆さまの記事やコメントのおかげで、10回目の登山はますます深く味わうことができました。心から御礼申し上げます。

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▲ブロークバック・マウンテンⅡ(51)~」カテゴリの記事

コメント

よしこさん、こんにちは。
ブログの紹介、ありがとうございます。なんとBBMのなんですね、嬉しい。熱のこもった記事ばかりですね♪ もっと早く教えてくださいよ~。
のちほどコメントしに参りますね。

投稿: びあんこ | 2006年5月 3日 (水) 05時35分

いつも丁寧にお返事ありがとうございます。びあんこさんほどの方に見ていただくようなブログではないのですが、どのように紹介されているか少し気になるといけないので、一応お知らせします。PC不慣れで、TBしたことないので、URLをお知らせします。変なこと書いてないか心配です。

投稿: よしこ | 2006年5月 2日 (火) 10時15分

ライチ茶さん、こんにちは。

コメントありがとうございます!

>イニスは生来は几帳面で細かいところのある人物じゃないかなと思っています。ブロークバック・マウンテンにいる時そういう感じ

そうですよね。どうも細部にこだわりすぎて疲れたので今日は記事は書けないかと思いましたが、おかげさまで元気をもらえました。これから書いてみますー。

>本来の自分の気質と違う自分を演じているのはつらい

全くその通りで、イニスは父や周囲からの影響でマッチョを演じたんでしょうが無理があちこちで出てますよね。

>あの人は絶対に私の味方でいてくれる」と思える人が1人いれば

私も1人でいいから味方が欲しい、と切望した時期があります。
ジャックは本当にイニスにとって大事な存在だったのですよね。リー監督の演出はあまりにさりげなくて見過ごすシーンが多いかも。また見に行きたいです。ライチ茶さんも4回目を味わって来てください♪

投稿: びあんこ | 2006年5月 2日 (火) 09時24分

びあんこさん、こんばんは、というか時間的にはおはようございますですが。
10回に到達ですか。すごい!私はどうやら今週行く4回が限界のようです。劇場にリクエストだしてはみますけどね。

「ジャック=風」と書かれてたレビューを読んだことあります。その方はリー監督が風の音に力を入れたそうだ、とも書かれてました。
実際1度目の鑑賞の時、映画の最初に風の音が聞こえたことでグッと映画に引き込まれましたから全編にわたって計算されてるのでしょうね。最後の鑑賞時は耳を澄ませてみようと思ってます。

私はイニスは生来は几帳面で細かいところのある人物じゃないかなと思っています。ブロークバック・マウンテンにいる時そういう感じなので。ああいう厳しい自然の中にいる自分を偽れませんからね(そんな余裕かましてたら死ぬし)。
だから下界というか町にいるときは結構しんどそうだな、と感じました。いわゆる「男らしい」と言われる気質とは違いますよね?大なり小なり誰でもすることなので、たいしたことなさそうに思えても、本来の自分の気質と違う自分を演じているのはつらいものです。
そういう生活の中での唯一の心の拠り所が「ジャック」なのかな、と思っています。私にも経験がありますが、人間つらい状況に置かれたとき、「例え、殺人犯になって世界中の人から非難されても、あの人は絶対に私の味方でいてくれる」と思える人が1人いれば人間耐えられるものです。だからそっけないように見えて相手(ジャック)がいないとダメなのは恋心以外の要素もあるイニスの方かなと思います。なので再会までの4年間イニスの気持ちの中にはジャックは確実にいたと思われます。さりげない演出であらわしてありますよね。

投稿: ライチ茶 | 2006年5月 2日 (火) 06時14分

avalonさん、真紅さん、コメントありがとうございます。またもやまとめレスで失礼します。

★avalonさん、こんにちは。

字幕の件、ご教示ありがとうございました。近くに雌馬が…の字幕はずいぶん違うニュアンスで訳してるんですね~。

★真紅さん、こんにちは。

>スウィートなだけの思い出にしてしまわないところが原作者アニー・プルーの凄さなのだろうと解釈しています。

そう思うしかないですね。原作もラストでは「あいつは誓うような奴じゃなかった」って厳しいです。
また遊びに行きますね。

投稿: びあんこ | 2006年5月 1日 (月) 17時29分

びあんこさん、こんにちは
馬に振り落とされた云々のセリフですが、

冒頭、山にいくところで、Jackが乗った馬に少々てこずってると
Ennisが声をかけます。
このときJackの返事が
字幕では
近くにメスがいるんだ (だから気が立ってるんだ)というような字幕だったんですが
I doubt there's a filly that can throw me.
雌馬なんかに俺は振り落とされないぜ!
といってるのです。
それで後の山の上でのハーモニカの会話
Ennisの
I thought you said that mare couldn't throw you.

につながってると思います。

filly とmareはともにメス馬で、成熟してるかしてないか?の違い。
そのあとJackは
彼女(馬)は運が良かったんだ、と返してますね。

投稿: avalon | 2006年5月 1日 (月) 14時03分

 びあんこさん、こんにちは。真紅です、ご紹介ありがとうございます。
「まどろみの抱擁」について。私も、アルマがイニスを後ろから抱くこの場面が、ジャックの回想シーンと対になっているとは驚きでした。耳を澄ませて、風の音を意識してないと気付けなかったと思います。
 回想シーンは、原作でももっとも美しい場面ですが、ただスウィートなだけの思い出にしてしまわないところが原作者アニー・プルーの凄さなのだろうと解釈しています。(私もびあんこさんと同じく読んで悲しかったのですが、そう思うことにして自分を納得させています)
 連絡の途絶えていた4年間も、イニスはジャックを思っていた。さりげない場面で私達にそのことを教えてくれるこの映画が大好きです。アン・リーの、抑えているけれど確かな演出に、改めて敬意と拍手を送りたいですね。
ではまたお話しましょう。ありがとうございました。

投稿: 真紅 | 2006年5月 1日 (月) 13時33分

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