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ブロークバック・マウンテン(84)

Clipartbrokebackmountaingyllenhaalledger_3 だんだん「BBM」上映も終わりつつありますが、逆に上映開始の地域もあるそうですね。日比谷シャンテでは5月19日までだそうです。明日、バレエと掛け持ちしちゃおうかな。初回の後ならギリギリ間に合いそう。http://www.chantercine.com/schedule/index.html

 さて。今日は真紅さんが「風の歌を聴け~BBM#3」(リンクから飛べます)で言及されたイニスの「殺気」について書かせていただきます。

★以下、ネタばれとなります。

 Clipartbrokebackmountainledgergyllenhaal イニスとジャックが関係した翌日の夕方。キャンプに戻ったイニスは、ジャックの背後から音もなく近づきます。気まずい空気が漂います。音楽も不安げなもの。そしてイニスの手にはライフル。何故にライフル? 確かにいま思うと不自然です。ジャックの元に行くのにライフル持参とは。このとき、イニスの混乱は極限に達していたでしょう。あれほど同性愛はいけないと自分を押さえ込んできたのに、行きがかり上とはいえジャックと。

 上記の画像は翌朝、イニスが羊の元に帰る直前。予告にも入ってますね。ジャックがシャツをズボンの外に出したままイニスを見送ります。イニスは銃の点検をするだけでジャックには目もくれない。いったいどういう心境だったのでしょう? 何故、銃の点検シーンがここに?

 重い心を抱えてイニスは羊の元に戻る。と、案の定、コヨーテが羊を襲っていた。羊番を怠ったツケが回ったのです。しかも、その原因たるや…。すべてはジャックのせい、あいつが誘ったから、とイニスは思ったかもしれません。

 最後のキャンプでもジャックのメキシコ行きを知り「殺してやる」と口走ったイニスです。半日、羊番をしながら殺意(?)が芽生えていったとしても不思議ではありません。と、1日たって冷静に書いてますけど、昨日「イニスの殺気」というフレーズに接したときは雷に撃たれたようなショック!

 ここで突然、映画「モーリス」の話になります。あちらは100年ほど前のイギリスの話。モーリス(ジェームズ・ウィルビー)は友人宅を訪問中、猟場番アレック(ルパート・グレイブス)から慕われます。アレックはアルゼンチン移住を控えており、大胆にもモーリスに夜這いをかけるのです。同性愛の自覚があったモーリスはアレックの情熱に圧倒され、受け入れてしまいます。翌朝には2人はかなりラブラブになっていました。

 しかしその日、クリケットの試合の合間にアレックが使用人仲間と談笑しているのを見てモーリスは不安になります。昨夜の自分たちの話をしているのでは、と疑ったのでしょう。あの時は互いに真剣に思えたが、もしかして自分は遊ばれただけで、いまアレックは仲間に「ゆうべはお坊ちゃまと楽しんだ」などと吹聴し嘲笑っているのではないか? 

 一方のイニス。あれが初体験だったでしょう。はじめて知ったセックスは強烈だったはずです。しかしそれを教えたのは同性であるジャック、あってはならないことでした。ですから銃を手にジャックに近づいたとき、真紅さんが書かれたように「ジャックの答え次第では撃ち殺しかねないほど」の心境だったと思います。周囲には誰もいず、モーリスのような疑心暗鬼を味わうことはなかったのですが、それでも。

「あれは一度限りのことだ」(It's a one-shot thing.)とイニスが言いますが。このshotという単語が初見から心にひっかかっておりました。「射撃」の意味あいが一番強いですから。このときイニスが銃を持っていたことで、私も何かを感じていたのかもしれません。ただ、「殺気」とか「殺意」までは思い至りませんでした。(★追記;真紅さんは「殺気」とだけ書かれています。「ジャックの答え次第では撃ち殺しかねないほど」の心境、という言葉に私が過剰反応して「殺意」と書いてしまいました。)

 ジャックは「俺たちだけの秘密だ」と。イニスが「俺はカマじゃない」と言うと「俺も違う」。イニスはほっとしたでしょう。だったらエスカレートした友情で済むのだ、だって自分もジャックもqueerじゃないんだから。

 もしここでジャックが「固いこと言わずに今日もやろうぜ」とか「お前だって楽しんだくせに」だのと口にしたら惨事に発展してたかも。ジャックもイニスの殺気を感じ、穏便に済ませようと思ったのかもしれません。とにかく、イニスは間違いを犯さないで済みました。

   2日目の夜、テントでイニスがsorryと言ったのは、その件に対してだろう、と真紅さんは解釈しておられます。そうともとれるし、「同性愛でないお前にこんなことさせて済まない」のニュアンスもあったかもしれません。元々、sorryは脚本にはない台詞です。

 イニスは最後までジャックとのことは友情だと思っていたのでしょう。アルマは妻であり、娘たちの母親。恋とか愛とかを意識した事があったのだろうか? どうしても自分の常識で判断しがちですが、少なくともイニスに関しては、私たちが通常、映画の主人公に持つイメージを当てはめるのは無理な気がします。イニスが一度も「愛してる」と言わなかったのは愛を知らなかったから。

 そして、ジャックを失って初めて、イニスはジャックがかけがえのない存在だったことを知ります。あまりにも遅い自覚でした。

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▲ブロークバック・マウンテンⅡ(51)~」カテゴリの記事

コメント

ぐりさん、真紅さん、sumisuさん、みちるさん、ライチ茶さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。例によってまとめレスで失礼します。
ココログって「びあんこon××」のように誰がどの記事にコメントしたかしか表示されないのですね。なので個別に書いても却って混乱しますし。ご了承くださいませ。


★ぐりさん

>愛憎という言葉

愛と憎しみは表裏一体といいますが。ドイツ語には「ハス・リーベ」(憎しみの形をとる愛)なんて言葉があるそうですね。

>男性の脳の中で性衝動と暴力衝動をつかさどる器官は隣りあわせ

そうなんですかー。なんとなく納得。男性の破壊衝動の凄まじさを感じるときが(小説などで)あります。古いですが「詩人ユースティス・チザムの仲間」を思い出しました。ご存知ですか? カテゴリー「忘れられない小説」の最後の方に感想が。

>それほど深い意味はないのでは?と思いますが。

ジャックが登山前、麓で銃を点検するシーンがありますし、貼り付けた画像の場面はその対かも。私もそんな深い意味はないと思います。ただ、「殺気」の件で妄想が暴走しちゃいました。もう「BBM」に秘密はないと思っていたのに。また新たなテーマが出てきて燃えてしまいました。(笑)


★真紅さん

おかげさまで新たな視点から記事を書くことができて感謝しております。

「殺意」は私の妄想に過ぎません、真紅さんの発言のように誤解を招く恐れがありました、申し訳ありません。昨日のうちに補足修正しましたが、あれで大丈夫でしょうか?

>「一度きりだと言ったのは自分なのに・・。ごめん」という感じだったと思うのですが?

そういう意味もありますよね、きっと。というかヒースのアドリブなら真意はヒースに聞かないと?

>”I'ts all right.”とやさしく包み込むジャック。最高に美しいシーンでした。

まさに♪ all rightも脚本では2回になってますが、映画では1回だったような。簡潔でよいと思いましたが、みちるさんのコメントで新たな疑問が湧いてきました。

>友情とは違うものだ、くらいはわかっていたのではないでしょうか?

特別な友情、でしょうか? そういえば彼らには他に友達がいたのでしょうか、全然出てきませんよね。どちらにとっても唯一の友だったとしたら、尚せつないです。

また遊びに行きますね、宜しかったら、こちらへもどうぞ♪


★sumisuさん

いつもコメントありがとうございます。

>イニスはやっぱり、かなり混乱した精神状態

そうなんですねー。「モーリス」では翌日の不安を克明に描いてるんですが、例によって「BBM]は控え目だし、すぐ夕方のシーンになりますから。観客が想像するしかないです。

>それまで経験がなかった

キャンプのシーンで「俺は清い」と言っていたし、当時のアメリカの田舎の人は結婚まで性交渉なし、も多かったかと。

>2人のシーンが不自然

私が記事に書いた件ですか? その方は男同士のラブシーン全体が不自然に見えたらしいですよ。初日も2日目もそう見えたんだろうと思います。ゲイ・シーンに拒絶反応がある人は仕方ないのでは?


>ジェイクは上裸身を見せてましたが

あれはヒース、じゃなくてイニスを待っていたんだと思います。来なかったら諦めたのかも。あれはジャックの賭けだったと言う人もいますね。


★みちるさん、おひさしぶりです。

>そういう台詞を言っているのかさえも、はっきりとはわからないんですよ。

うわ! 私も字幕に惑わされたクチかも。今日、10回目を見るので注意してみます。

>オーライ(これならできる?)ってヒースが独り言いってたのは、確認できましたよ。これ、なりきってたヒースのアドリブね。

それは気づきませんでした、ほんとなりきってますね、ヒース♪ 今日は聞き取れるかな???

DVDで確認されましたら教えてくださいね。


★ライチ茶さん

「殺気」にはほんと瞠目しました。
ライフルですが、ジャックが羊番をしてた頃、キャンプに戻ってケース入りのまま丸太に立てかけてたような? それを、イニスは裸で銃を持ってジャックの元へ。

>物凄く不安だったからではないかと思います。もっと言えば怯えかな?もちろん本人は無意識でしょうが。

そうかもしれませんね、とりあえず武装しておく? ジャックに「1回限りだ」と宣言しなきゃいけなかったわけですし。その勇気を出すためにも銃が必要だったのかも。

>ある意味、本能で生きてますねイニス。

本能の人、って感じがしますよね。(笑)

投稿: びあんこ | 2006年4月29日 (土) 06時57分

びあんこさん、こんばんは。
先日こちらにリンクされていた真紅さんのレビューを読んで、「殺気」になるほどな~と感心しました。素晴らしい着目点。
私もあのシーンのライフルは「?」と不自然な感じは受けましたが、そこまで深く考えませんでした。

私はあのシーンでイニスがライフルを手にしているのは物凄く不安だったからではないかと思います。もっと言えば怯えかな?もちろん本人は無意識でしょうが。
不安感に苛まれると、武器というか己を武装して守ろうとするところが生き物にはありますから。「ボーリング・フォー・コロンバイン」ですね。
ある意味、本能で生きてますねイニス。

投稿: ライチ茶 | 2006年4月29日 (土) 05時33分

ども。ご無沙汰です。毎日色々熱心な方々のコメントが入ってきてますね。読むだけで、
時間がなくなってしまってましたが、上記の件でちょっと。
I'm sorry をイニスとジャックのどちらが言っているのか、判らない、という意見は聞いたことがありました。日本語字幕にも「すまない」と出ているそうですね?
私は、これ、そういう台詞を言っているのかさえも、はっきりとはわからないんですよ。
It's all rightと囁いているのが、そういう風に聞こえちゃっているだけ、という指摘もあったようですし。
ちょっと、dvdで確認してみます(音声フルボリューム!)。

「オーライ」といえば、4年ぶりに再会した時のキスシーンで、イニスがジャックを物陰に引き込む前に、周りに誰もいないか確認した後、オーライ(これならできる?)ってヒースが独り言いってたのは、確認できましたよ。これ、なりきってたヒースのアドリブね。

投稿: みちる | 2006年4月28日 (金) 22時40分

こんばんは、びあんこさん。イニスはやっぱり、かなり混乱した精神状態だったんでしょうね、、ぐりさんの性衝動と暴力衝動は、、とゆうのは、興味深いですね。女性には理解できない衝動です。前に2人のシーンが不自然とあり、公式BBSで、ゲイの方が最初の夜は不自然、、とあったので、てっきり2日目の事だと思っていたのに、最初の夜の事だったの??と思いました。女性である私にはやっぱりピンとこなかったのですが、、。でも、ぐりさんの意見でイニスはそれまで経験がなかったようですし、あのような行動になったんでしょうね。
でも、混乱したイニスでも、2日目の夜のジャックの魅力には抗えなかったんでしょうね、、あのシーンでもジェイクは上裸身を見せてましたが、ヒースは服を着ていましたね。びあんこさんのゆうように、イニスは役的にマッチョの必要はないですね、、。

投稿: sumisu | 2006年4月28日 (金) 20時15分

 びあんこさん、こんにちは。真紅です、度々お邪魔します。
「イニスの殺気」について。私はあの場面で殺気は感じましたが、「殺意」は感じませんでした。
多分イニスも、銃を手にしたのは無意識にだったと思います。
だからその夜、イニスが”I'm sorry”と言ったのは「一度きりだと言ったのは自分なのに・・。ごめん」という感じだったと思うのですがいかがでしょう?
”I'm sorry”の一言がアドリブで出るほど、ヒースはイニスに成りきっていたのだと思います。
それに対して、イニスの混乱も「そうせずにはいられない」欲望も、全てひっくるめて
”I'ts all right.”とやさしく包み込むジャック。最高に美しいシーンでした。

>イニスは最後までジャックとのことは友情だと思っていたのでしょう。

う~ん、これは微妙です。イニスは最後まで(彼を失うまで)ジャックへの感情が「愛」だとはわからなかったのだろうとは思いますが。。
友情とは違うものだ、くらいはわかっていたのではないでしょうか?

またお話しましょう。

投稿: 真紅 | 2006年4月28日 (金) 13時19分

こんちは。
愛憎という言葉がありますが、男性の脳の中で性衝動と暴力衝動をつかさどる器官は隣りあわせになっていて、未成熟な過程では両者は一致していて分化していないそうです。これが分化するのは第二次性徴以降ですが、性犯罪の犯罪者が男性ばかりというのはこの脳の構造によるものらしいです。
まあだから極論でいえば、もしかしたら、男性にとって性行為の相手に殺気や暴力衝動を抱くのは本能・無意識の感情のレベルでは自然なことかもしれません。理性や理屈でどうということではなく。

劇中でイニスがもっているライフルですが、馬を下りる時はイニスもジャックも大抵馬具から外してますね。
旧式のものだし馬具に載せたままにしてると危険だからじゃないでしょうか。
同じく載せる時には毎回ふたりとも点検してから載せてます。
それほど深い意味はないのでは?と思いますが。
どうでしょう。

投稿: ぐり | 2006年4月28日 (金) 13時13分

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