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恋人たちの曲/悲愴

Meisakue2  雪のモスクワ、祭りでにぎわう広場は、まるでバレエ「ペトルーシュカ」の冒頭のよう。チャイ様、いきなり男友達とはしゃいでおります。そう、この映画ではチャイコフスキーがゲイであったことを前提に描いているのだ。
 チャイコフスキー役はリチャード・チェンバレン。当時(70年)よく聞いた名だが、作品を見るのは初めて。なかなか男前でヒゲも似合う。

 母親をコレラで失ったチャイ様は、どうもマザコン気味である。女性への淡い憧れはあるが、肉体関係は結べない。なのに、ニーナ(グレンダ・ジャクソン)という女性の熱意に負けて結婚してしまう。
 結婚は失敗だった。「兄と妹のように」という希望はニーナには受け入れられないものだった。次第にチャイ様は追い詰められていく。そしてニーナも。

 パトロンのフォン・メック夫人は、チャイ様とニーナが別居したことを喜ぶ。結婚してからロクな曲が書けていなかったから。彼女は深く彼の才能を愛していたのだ。
 フォン・メック夫人は別荘をチャイ様に解放し、チャイ様は思う存分、創作活動に打ちこめるようになった。彼は交響曲4番を夫人に捧げる。

  マザコンなチャイ様は、高貴な夫人に、母の面影を求め、さらには理想の女性として崇拝していたようである。
 夫人もまた、成人した息子がいるような未亡人にも関わらず、チャイコフスキーにプラトニック・ラブを感じていたようだ。ベッドで午睡するチャイコフスキーの横に夫人が横たわり、指1本触れもせずに、それでも至福の表情を浮かべるのが印象的だった。

 しかし、幸福な時は続かない。チャイコフスキーの昔の愛人(♂)が夫人に彼の過去を告げる。潔癖な夫人は許すことができなかった。
突然、夫人はチャイコフスキーの前を去り、援助も打ちきられる。

 思い出の別荘の前で「何故なんだあーっ!?」と号泣するチャイコフスキーの痛々しさ。
 コレラが流行っていたのにも関わらず、いやそれだからこそ危険な生水を飲み干したのも無理はない。死にたかったのだ。
 苦しみの果てにチャイコフスキーは世を去る。
 その頃、かつての妻ニーナも精神病院で「私はチャイコフスキーの妻よ!」と叫びつつ、悲惨な日々を送っていたのだった。

 こんなに皮肉でシビアで、ある意味、小気味良い描き方をする監督がいたとは、一体、誰なのだろう?
 とエンドマークでやっと分かった、ケン・ラッセルだったのだ。さすがあ!

http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD16990/?flash=1

 かつて私にとって、チャイコフスキー=「白鳥の湖」だった。そのバレエシーンが映画にも出てきて嬉しかった。
 湖畔の野外ステージ。「白鳥」の3幕、黒衣のオディールが王子を誘惑している。

 妻と居合わせたチャイコフスキーは、「君の理想の愛は終った」と揶揄される。舞台ではオデットが王子の裏切りを哀しんでいた。
チャイコフスキーの音楽(とバレエ)を使って結婚生活の行方を暗示するシーンでにやりとしたが、それ以上に感心したのが「幻想序曲ロミオとジュリエット」の効果。

 チャイコフスキーの支援を申し出たフォン・メック夫人の元に、モスクワ音楽院長のルビンシュテインがやってくる。
「彼はいい曲を書きます」と、ルビンシュテインがこの「R&J」をピアノで弾くのだ。

 午睡するチャイコフスキーの隣にフォン・メック夫人が横たわるシーンで、再度、この曲が流れた。2人の愛のテーマなのだろうか。
私には、この2人もまた「ロミオとジュリエット」だったと思えてならない。
 ゲイの作曲家と、彼の才能を愛し、陰から支えた未亡人。「R&J」の世界からはほど遠く見えるが、障害の大きさからいえば、家同士の対立にも負けない。
 絶対に結ばれることのない恋人同士ながら、心から(心だけ)愛し合っていたはずである。

 だが、現実は、この理想の愛の存続を許さなかった。チャイコフスキーの過去を知って、夫人の理想の愛は音を立てて崩れてしまう。
並んでベッドに横たわったあの時が最高の瞬間だった。初夜の床であり、共に葬られた墓場の石の寝台でもあった。

 実際には、この「恋人たち」は1度も顔を合わせたことはないようだ。
ただ、フォン・メック夫人が突然、援助を打ちきり、その理由も不明、これは本当らしい。この作品では、そのへんをうまくチャイコフスキーの自殺決意に結びつけていて興味深かった。

 あまりにも激しく傷ましいチャイコフスキーの生涯。同時期にソ連でもチャイコフスキーの映画を撮っているが、こちらは多分、こんな赤裸々なものではないだろう。
 R.チェンバレン、G.ジャクソンの熱演(時にはおぞましいほどの)を見た今、ソ連製作の作品を見ても、きっと気の抜けたものに感じてしまうだろう。

 今後、チャイコフスキーの音楽を聴くたびに、夫人に去られて泣き叫ぶ顔を思い出してしまいそう。

http://cinema-magazine.com/new_meisaku/hisou.htm

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